顧客の声に耳を傾けることの限界

 ビジネスの世界で必ずと言ってよいほど繰り返されるパターンといえば、業界大手が技術や市場の変化にいち早く対応できずに失敗するというものである。

 グッドイヤー・タイヤ・アンド・ラバーとブリヂストン・ファイアストン・ノースアメリカン・タイヤは、ラジアル・タイヤ市場への参入が大幅に遅れた。ゼロックスは、キヤノンが小型コピー機市場を開拓するのを許してしまった。ビュサイラス・エリー(現ビュサイラス・インターナショナル)は、キャタピラーとジョン・ディアに掘削機市場を奪われてしまった。シアーズ・ローバックはウォルマート・ストアーズに駆逐された。

 とりわけコンピュータ業界では、この失敗パターンが頻繁に見られる。IBMはメインフレーム市場を独占していたにもかかわらず、メインフレームよりも技術的には格段に単純なミニ・コンピュータの出現により、何年もの間、ライバルに水を開けられることになった。

 ディジタル・イクイップメント(DEC:98年にコンパックが買収)は、〈VAX〉アーキテクチャーといったイノベーションを生み出し、ミニ・コンピュータ市場を独占したが、PC市場では完全に取り残された。

 アップル・コンピュータ(現アップル)はパーソナル・コンピューティングの世界を切り開き、ユーザー・フレンドリーなコンピューティングの基準を構築したにもかかわらず、ラップトップ・コンピュータ市場への参入は、先行者に5年も遅れてしまった。

 これらハイテク企業は、既存顧客を維持するには投資をいとわず、またこのような投資で成功してきたにもかかわらず、将来の顧客が求める技術になぜ投資できないのか。官僚主義、傲慢さ、無気力な経営陣、ずさんな計画、近視眼的な投資など、これらすべてに原因があることは間違いない。

 とはいえ、このパラドックスの根底には、もっと根本的な理由がある。業界リーダーたちは、マネジメントにおいて有名で、重要とされている、一つの教義を盲目的に信奉している。すなわち、顧客の意見に耳を傾けるというものだ。