従業員はそもそも何を望んでいるのか

 企業が従業員を支援し、エンゲージする方法を磨き上げれば、人材を引き寄せ、定着率を引き上げ、イノベーションを促進するだけでなく、顧客満足度も高めることができる。しかし、リーダーが従業員体験を管理して最大の効果を挙げるには、従業員が何を見て何を感じ、何を望んでいるかを把握したうえで賢明に対応することが必要になる。

 企業リーダーは昨今、労働市場の需給の逼迫に背中を押され、従業員からフィードバックを集めようと、パルスサーベイ(短期間で繰り返し実施する従業員意識調査)やタウンホールミーティング、主要拠点をめぐるリスニングツアー、フォーカスグループ、オンライン掲示板からのデータ抽出などに多大なエネルギーとリソースを投入している。

 多くのリーダーにとっての問題は、従業員にどう思うかを聞いたとしても、その意見にどう対処すればいいかがわからないことだ。せっかく意見を集めても、有益なインサイトや具体的なアクションに落とし込むのに苦労するのだ。情報を収集してから、筋の通ったアクションで対応するまでに時間的空白が生じれば、従業員のフィードバックの価値が次第に低下する。いつまでも空白が解消されなければ、従業員が調査に回答しなくなる可能性すらある。

 筆者らは調査の一環として、中規模~大規模な多国籍企業20社以上の経営幹部やHR部門リーダーを対象に詳細なインタビューを実施した。狙いは、フィードバックの収集から対策を講じて従業員体験を管理するまで、組織がどのように動いているかを明らかにすることにある。

 インタビューで明らかになったのは、対象企業(テクノロジー、金融サービス、消費財など多岐にわたり、従業員数は合計200万人を超える)が共通して7つの課題に直面していたことである。また、それらを克服するためのイノベーティブな戦略も明らかになった。本稿では、この7つの課題を概説するとともに、従業員の意見の収集・理解、対策への落とし込みを網羅する総合的なプロセスを、有力企業がどのように構築しているかを紹介していこう。

1. 大量のデータの意味を理解する

 筆者らはリーダーたちにインタビューを行う中で、従業員からフィードバックを集めるための高度な手法の数々を耳にした。テクノロジーのおかげで、この種の情報収集はだいぶ取りかかりやすくなっている。

 いまや企業は毎年(半年ごと)、毎週、毎日、さらには1時間ごとに、さまざまな情報源からデータを収集している。通常はHRが情報収集を一元管理しているが、個々の事業部門やリーダーは対象範囲を絞ってデータを収集している。また、こうしたプロセスを補完するために、タウンホールミーティングやフォーカスグループ、タスクフォース、インタビューなどの、より定性的な手法を複数利用している企業も多い。