「戦い」「武装」…戦争用語を多用するリーダーが見落としているリスク
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サマリー:企業のリーダーは、自信や競争力を示すために「戦い」や「武装」といった戦争をイメージする比喩を多用しがちだ。しかし、筆者らの研究によれば、金融アナリストに対しては、逆効果となる可能性があるという。特に市... もっと見る場が不安定な時期や、支配的企業が攻撃的な言葉を使う場合、その影響は顕著である。適切な言葉選びが、企業の戦略評価を左右するのだ。本稿では、企業リーダーが戦争の比喩を用いる影響を論じるとともに、特にそうした比喩を避けるべき時について解説する。 閉じる

リーダーが使う「戦争をイメージする比喩」は効果的か

「あいつらが二度と商売できないようにしてやる。あのビルを買い上げて、ブルドーザーで潰して、跡地に塩を撒く。次は、奴らの関連会社の番だ」。これは米オラクル会長のラリー・エリソンが、ある競合企業について語ったことだと報じられている。ビジネスを戦争に見立てた発言は、企業のコミュニケーションでよく見られる。エリソンのこの発言はとりわけどぎついが、異例なものとは言いがたい。多くのCEOが企業買収の発表をする時、「戦いに勝つために必要な戦略だ」とよく表現する。

 2006年、米大手新聞チェーンのマクラッチーCEO(当時)のゲイリー・プルイットは、「これまでになく大きな賭けになっている。(中略)最強メンバーで戦闘に臨む」と、投資家やアナリストに向けて語った。光伝送装置メーカーのインフィネラの経営幹部は、2015年のアナリストとのカンファレンスコールで、「エンド・トゥ・エンドのオファーで武装している」と語った。米電子機器メーカーのビーコ・インスツルメンツは、2013年のカンファレンスコールで、モバイル市場を「戦場」と表現しており、太陽光発電システムのファーストソーラーは2009年、買収計画は競合他社を追い抜くための「攻撃」と表現した。

 CEOたちは、自信や強さ、そして競争に対する好戦的な勢いを伝えるために、戦争の比喩を頻繁に使う。「非効率に戦いを挑む」とか「市場シェアをめぐる戦い」といった表現は、大胆な行動を取り、市場を支配する意欲を示す。こうした比喩は、複雑な戦略をシンプルで鮮やかなイメージとして示し、コミュニケーションを円滑にする。

 しかし、批判的な分析が仕事である金融アナリストがこうした表現を聞いた時、同様の効果を得られるのだろうか。近く『オーガニゼーションサイエンス』誌に掲載予定の筆者らの研究は、戦争の比喩は往々にして強さではなく、不当なリスクと攻撃性のサインと見なされ、正反対の効果をもたらしうることを示している。

戦争用語が本当に伝えたいこと

 筆者らは、2004~2016年に米国の上場企業が行った計999件の買収発表を分析した。CEOが戦略的決定について説明する買収計画に関するカンファレンスコールに焦点を当て、彼らがその際にどのような表現を使ったかを調べたのだ。具体的には、会見の文字起こしに基づき、戦争の比喩が使われた回数と、それが金融アナリストの反応に与えた影響に注目した。独立変数は戦争関連用語の使用回数であり、戦争に関連する比喩的表現によって測定した。従属変数は、金融アナリストがCEOの発表を聞いた後に書いたリポートで、当該買収をどのくらい肯定的(または否定的)に表現しているかであり、ポジティブな感情表現とネガティブな感情表現の比率を分析、測定した。

 その結果、驚くべき真実が明らかになった。戦争の比喩は、強さを誇示するために使われることが多いが、金融アナリストの受け止め方は芳しくなく、戦略発表そのものの低評価につながる可能性が高まった。CEOによる戦争関連用語の使用が1ポイント増えると、アナリストの評価は20%以上否定的になるのだ。

 こうした否定的な反応が生じるのは、戦争の比喩がアナリストのリスク評価に影響を与えるからである。戦争関連用語は、衝突や破壊や大きな賭けをイメージさせ、危険と関連する感情的な反応を引き起こしうる。アナリストは、リスクとリターンの両方を評価することが仕事であり、こうした戦争用語を、企業が過度に攻撃的で、リスクの高い行動を取っている兆しと解釈する場合がある。このように戦争の比喩は、強さを印象づけるのではなく、その会社が自制心を欠いているか、無謀な戦略的行動に出ているという印象を与える。こうしたリスク意識の高まりが、究極的には、否定的な評価につながるのだ。

リーダーが軍事的比喩を特に避けるべき時

 戦争の比喩がもたらすマイナスの影響は、特定の状況ではいちだんと増幅した。したがって、このような状況にある企業は、戦争の比喩を避けることが特に重要だ。