二極化するイノベーションへのアプローチ

 米国でイノベーションの危機が生じている。規模の大小を問わず、イノベーションに失敗している企業があまりに多いのだ。その結果、問題は未解決のまま残され、新たなテクノロジーが発明されることは一切なく、意義のある仕事が創出されない状態にある。

 ある試算によると、2006年から2018年の間に生産性の低下がもたらした経済損失は10兆ドル以上に達する。これは米国の労働者1人当たりおよそ9万5000ドルの損失に相当する。

 筆者らは、この危機の主な原因は、イノベーションに対する企業のアプローチが二極化していることにあると考えている。

 両極の一方では、製品リニューアルや製品ラインの段階的なアップグレードにR&D活動をますます集中させている。そのようにすることで、R&D予算を最小限に抑えながら、収益源と市場シェアを維持しているのだ。このような漸進的(インクリメンタル)イノベーションは収益性を守り、リスクを低減しながら緩やかな成長をもたらす。

 もう一方は、ベンチャーキャピタル(VC)が支持するハイリスクの「変革型(トランスフォーマティブ)」イノベーションである。これは業界を根底から覆し、巨額のリターンを生み出すものだ。VCが期待するのは、イノベーションの成功によって、失敗を補って余りあるリターンを得ることである。将来のM&A(企業の合併・買収)やIPO(新規株式公開)に向けて成長性のある企業をつくるために、イノベーションを支える起業家チームは、幅広い機能やオペレーション能力の構築に多大な時間とエネルギーを注ぎ込まなければならない。

 VCが必要とするリターンを得るためのエグジット価格と、スタートアップを買収するための入札合戦が意味するのは、大企業は多額の費用を支払い、成功している革新的なスタートアップを買収しなければならないということだ。スタートアップが既存企業に買収されると、評論家はほめそやす傾向があるが、このようなディールには非効率なところもある。経済的な観点から言えば、既存企業は社内でより多くのイノベーションを起こせたほうがよいだろう。つまり、スタートアップを買収するのではなく、自社で立ち上げるのだ。

 だからこそ、筆者らはイノベーションに対するアプローチの両極ではなく、それらの中間にある大きなギャップに目を向けることを提案する。

 この領域は、失敗により短期的な収益性が悪化した場合、アナリストから非難されることを懸念する大企業にとって、リスクが高すぎると考えられている。また、VCにとっては出資者を満足させられないリターンプロファイルへの投資はリスクとして物足りず、敬遠することになる。しかし、その中間領域こそ、大企業がイノベーションの取り組みを実行するのに最適な場所なのだ。