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イノベーションプロセスの3つの段階
市場では生成AIやグリーンテックを手がけるスタートアップの成功がもてはやされていることから、多くの専門家が既存企業に対して、そのようなベンチャーを見倣って革新的なイノベーションに取り組むよう促している。それも誰かにやられる前に、みずからの手で自社をディスラプトする必要があると迫られているのだ。
しかし、多くの既存企業にとって、それは実現可能な戦略ではない。企業オーナーはリスクを嫌い、金の卵を産むガチョウを殺したがらない。約束された利益を犠牲にしようとは思わないのだ。その結果、大企業では漸進的イノベーションが既定路線となり、打ち負かされる可能性が逆に増している。
この罠にはまる必要はない。逆に、上手に扱うことができれば、イノベーションプロセスによって既存事業を活性化することも変革することも可能だ。
大企業には、多種多様な組織能力や経営資源がある。それらを画期的な製品やサービスのアイデアを持つ起業家パートナー、あるいは社内の起業家精神にあふれたマネジャーらと共有することが可能だ。彼らはプロジェクトポートフォリオを作成し、スケールアップに成功する可能性が明確になるまで、個々のプロジェクトを育てることができる。
そのようにして、起業家パートナーや社内起業家であるマネジャーがプロジェクトの成功率を大幅に高めることで、企業は既存分野においてもイノベーションの最先端に留まりながら、新規分野に領域をも拡大することができるのだ。
ただし、以下で見ていくように、このアプローチは複雑でさじ加減が難しく、慎重に管理する必要がある。企業がこのアプローチを効果的に適用する方法を説明するために、本稿では欧州のアトラスコプコ、エネル、エピロックなど10社以上の大手多国籍企業の事例研究から学んだ知見を紹介したい。これらの企業のイノベーションプロセスには「探索」「コミットメント」「スケールアップ」という3つの重要な段階があることを、筆者らは明らかにしていく(図表「既存企業における3段階のイノベーションジャーニー」を参照)。それぞれ順番に見ていこう。
探索:スタートアップを発掘する
イノベーターは多くの場合、壮大な課題に取り組み、未来のビジョンを現実のものにしようと何十年も活動する。そうした努力の多くは徒労に終わり、世界を変えるのは1つか2つにすぎない。スタートアップは元来、このような道のりを歩くようにできている。彼らには自由があり、ベンチャーキャピタル(VC)の支援があれば、野望をひたすら追求するための資源もある。リスクに見合うリターンの上振れが見込まれる限り、すすんで失敗の可能性を受け入れるのだ。