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関税回避の迂回輸出は想定ほど増えていない
ドナルド・トランプは、米国大統領に就任してから最初の数週間で、中国、カナダ、メキシコなどの国に関税を課すか、その実施を予告した。経済上の重要な問題の一つは、対象国の企業が商品を第三国経由で輸出することによって、関税を回避するかどうかである。この迂回輸出は通常、商品を最終仕向地へ直接送らずに、関連会社や別のビジネスパートナーに一度、出荷するという形を取る。この方法により、対象国から商品を輸出する企業は、商品の原産国表示を非対象国にすることによって、自社商品に課される高い関税を違法に回避することが可能になる。
高頻度取引データを用いた筆者らの最近の調査では、2018年の米中貿易戦争後のベトナム経由の迂回輸出を分析することによって、この問題を検証した。その結果、関税の影響で迂回輸出はたしかに大幅に増加したが、そのレベルは多くのマーケットアナリストやジャーナリストが当初考えていたよりも低いことがわかった。注目すべきは、この増分の3分の2近くは、中国企業のベトナム現地法人を経由した迂回輸出によるものだったことである。
この調査結果は、米国の企業リーダーに対して、特定の原産国に対する関税措置では、関税対象国からの競争圧力は軽減できても、完全にはなくならないこと、そして政策立案者に対しては、迂回輸出が考えられているほど横行していないことを示している。それでも、調査で確認された迂回輸出のレベルは、米国消費者にとって価格上昇を意味する。筆者らは、特定の原産国に対する関税の賦課は、中国企業を標的にする道具としては管理が難しく、その目的を達成するには、所有権に対する関税または特定の企業に対する制裁のほうが効果的である可能性が高いと分析している。
迂回輸出の算出
筆者らのワーキングペーパー"Exports in Disguise?: Trade Rerouting during the U.S.-China Trade War"(偽装輸出か──米中貿易戦争における迂回輸出)では、米国の関税措置の対象となった中国製品が、中国経済への影響を緩和するために、ベトナム経由で迂回輸出されたのかどうかと、迂回輸出された場合の方法について調査している。
この問題に注目したのには、主に2つの理由がある。第1に、中国製品は、中国と密接な関係にある国々を介して迂回輸出される可能性が高いことが過去の調査で示されている。密接な関係とは、地理的に近く、似た制度的枠組みを持ち、華僑・中国系移民の存在などにより文化的規範を共有していることである。これらの指標を考慮すると、ベトナムが迂回輸出の最有力候補として浮上する。第2に、米国の輸入製品のすべての供給国の中で、ベトナムは、米中間貿易の停滞によって最も利益を得ている。調査によれば、2017年から2022年にかけて、中国が失った米国の輸入品におけるシェアの半分近くをベトナムが補填している。さらに、同期間にベトナムの輸入品における中国のシェアは5.5パーセンテージポイント増加し、貿易相手国の中で最も伸びている。
これらは注目に値する事実であるが、これだけでは迂回輸出の事実や規模の証拠にはならない。たとえば、ベトナム企業は、中国から輸入した原材料を使って、米国向けの製品を製造し輸出している可能性もある。この区別は重要である。なぜなら、ベトナム・米国間の貿易は、貿易戦争が始まる以前から拡大していたからである。さらに、関税措置が新たな対ベトナム投資や既存企業の増資を牽引し、実際に輸出の拡大を促進した可能性もある。
迂回輸出が実際に行われたのかどうかと、その程度を見極めるために、筆者らは、ベトナム企業調査(VES)とS&Pグローバルのパンジバ(Panjiva)の2種類のミクロ経済学的データを使用した。VESは、ベトナムにおける投資や生産、収益など企業レベルの事業に関する知見を提供している。パンジバは、国際的に統一された8桁の商品分類コード(HSコード)ごとの詳細な輸出入データを提供しており、それによって商品の正確な動きを追跡することができる。
筆者らは、迂回輸出を「同一四半期内に同一製品が中国からベトナム、その後ベトナムから米国へ移動すること」と定義した。その上で、迂回輸出の主要な指標を3つ定めた。いずれも国際貿易をHSコードごとに細分化した(製品分類は極めて細かい。たとえば、あるHSコードの品目は「自転車用タイヤ」である)。
第1の指標は、「国レベルの迂回輸出」と称して、ベトナムを通過したすべての製品フローを数えた。たとえば、2019年の第4四半期に、ベトナムが中国から自転車用タイヤを800万ドル輸入し、ベトナムが米国へ自転車用タイヤを1000万ドル輸出した場合、「自転車用タイヤ800万ドルの迂回輸出があった」と見なした。このプロセスをHSコード(全1万81種)ごとに繰り返し、それらを合計して国レベルの迂回輸出の全体規模を算出した。
この国レベルの指標では、合法的な貿易も含まれる可能性があることから、実際の迂回輸出を大幅に上回る可能性が高い。それは、ベトナムが中国から輸入した自転車用タイヤ800万ドルの一部がベトナムの消費者向けに販売され、米国へ出荷されなかった場合である。