AIへの抵抗を助長する5つの要因

 AIは驚くべきパラドックスを生み出している。2023年のガートナーの調査[注1]によると、経営戦略責任者の79%が「今後2年間の成功にはAI、自動化、アナリティクスの利用が不可欠だ」と考えている。ところが、「日常業務でAIを利用している」と答えた者はわずか20%だった。

 AIの成否は、日々進歩するその機能はもちろん、それを活用しようとする人々の意欲にもかかっている。そして、ガートナーの調査結果が示唆するように、ユーザーの間でAIを利用しようという機運はそこまで高まっていない。

 残念ながら、AIが未来をどう形成していくかという点について、多くの人々は悲観的である。フォーブス・アドバイザーの調査[注2]によれば、米国人の77%が「AIの導入によって今後12カ月以内に雇用の喪失が起こる」と懸念している。「AIによって個人情報が犯罪者に悪用される可能性が高まる」と考える者は80%だ。

 そして、事態はさらに深刻化している。ユーガブの世論調査によると、米国人の約半数が「いつかAIが人類を攻撃する日が来る」と考えている[注3]。AIについて、このような冷笑主義がはびこっていることを考えると、労働者に対して、みずからすすんで熱心かつ徹底的にAIを使ってみるように促すのは、気が遠くなるような仕事だろう。

 筆者は10年以上にわたり、デプスインタビューによる定性調査から約2500人のユーザーを対象にした実験調査まで、テクノロジーの導入に関するさまざまな研究を行ってきた。その結果、AIへの抵抗を助長する要因を明らかにした。それは、人々が基本的に「AIは非常に不可解で感情がなく、硬直的で自立したものだ」と認識し、「人間同士のやり取りのほうがずっとよい」と考えていることである。

 組織内あるいは消費者全般にAI導入を促進するための介入を計画する時には、こうした要因を理解することが極めて重要だ。本稿ではこれらを詳細に検証し、マネジャーが取りうる対策について説明する。

AIは不可解すぎるという認識

 多くのAIツールの基盤となる機械学習アルゴリズムは、ユーザーにとって謎めいた「ブラックボックス」である。その不可解さを前にして「知りたい、理解したい」という人間の基本的欲求は妨げられる。AIの出力結果に確証が持てなかったり、それが予想外だったりした場合はなおさらだ。

 いくつかの研究では、人間よりもパフォーマンスの優れたAIやシンプルで透明性の高いAIならば、人々は不可解であっても自発的に利用するが、人間のパフォーマンスと大差がない場合は、使用することに二の足を踏むことがわかっている。