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生成AIの使われ方はどう変わってきているか
1年前、筆者は生成AIが実際にどのように使われているかをテーマとする論考を『ハーバード・ビジネス・レビュー』(HBR)に寄稿した。これは大きな反響を呼び、多くの人に読まれた。そして、ソーシャルメディアで拡散され、記事内の美しいインフォグラフィックは広く共有された。その論考で分析したAIのユースケースはプライベート用途とビジネス用途がほぼ同数で、およそ半分が両方の用途にまたがっていた。
以来、AIと生成AI、大規模言語モデル(LLM)をめぐる盛り上がりは高まるばかりだ。ユーザーの関心は倍増し、AIへの投資はうなぎ上りに増え、政府はより強固で明確な立場を取りつつある。期待は大きく膨らんで、この技術に人類の未来がかかっているとの声まで出てきた。
HBR編集部と筆者は、生成AIの使用法に関する調査を更新する必要があると感じた。過去12カ月間に多くの変化が起きたからだ。いまやカスタムGPT、すなわち特定の要件に合わせてカスタマイズできるAIが登場した。ディープシークやグロックなどの新顔の参入で競争は激化し、選択肢も増えている。ポッドキャストを生成するノートブックLMをグーグルが発表すると、世界の耳目を集めた。オープンAIは数々の新モデルを発売し、それらすべてを一つのインターフェースに統合することを約束している。
思考の連鎖による推論も導入された。これによってAIは、最終回答に到達するまでの中間的な推論のステップをユーザーと共有し、多少時間はかかるものの、深みのあるより優れた回答を提供している。音声コマンドによってより多くの多様なインタラクションが可能になり、たとえばユーザーは運転しながら生成AIを使用できる。この怒涛の12カ月間で、コストは大幅に減少し、アクセスは拡大した。
今回のアップデート調査で目指したのは、1年前とまったく同じゴールだ。人々は、誰かがテクノロジーを効果的かつ生産的に使い、そこから優位を生み出しているのを見ると、すぐに真似をする。現実世界のユースケースは、宣伝や思想リーダー、秀逸なテクノロジーには太刀打ちできない方法と規模で、人々の行動を変化させるのである。そこで筆者らは、オンライン上の何百というコミュニティの深層にあるユースケースを可視化して、生成AIの多くのポジティブで有益な使用方法について関心を高め、推進したいと考えている。
本稿の方法論は2024年と同じだが、より多くのデータを精査し(精査すべき対象が大幅に増加)、期間は過去12カ月間に限定した。筆者はオンラインフォーラム(掲示板型ソーシャルニュースサイトのレディットやクオーラ)に目を通し、AIの明白で具体的な使用例を扱ったいくつかの記事も読んだ。おそらく匿名性のためだろうが、今回もレディットが最も充実した知見を生み出していた。筆者はそれらを熟読し、関連性の高い投稿をそれぞれのカテゴリーの記録に追加した。数日後、新たな100件のユースケースごとのスコアとユーザーのコメントの引用を発表した。
「2025年生成AIユースケース上位100件のリポート」は、2025年時点における上位100件の適用をリストアップしたものだ。このリストは、認識された有用性とインパクトの規模(専門家の審査によって定性的に評価)に基づいてランクづけされ、各項目につき1件または数件のコメントを掲載している。前回と同様、ここに本物の宝が眠っている(ただし、編集なしの生情報で作成されているので、気の弱い人には刺激が強すぎるだろう)。今回は、前回よりさらに明確で直接的に役に立つコメントを載せるよう努めた。
調査結果と傾向
上位100件のユースケースのうち、38件が新たにランクインした。このことは、多くの変化がいまなお進行中であるという事実をあらためて示している。上位10件のユースケースは以下の通りだ。
「セラピー/話し相手」(後に詳述)が、ユースケースの新しいトップである。また「生活を整える」と「目的を見つける」の2件が、新しく上位5件に入った。この3つのユースケースは自己実現の取り組みを反映しており、この1年で、AIの使用が技術面から精神・感情面に移っていることがよく表れている。
ユースケースを大まかに6つのテーマに整理すると、2024年と比較して次のような変化が見られた。
現在、「個人的および職業・専門的サポート」が他を大きく引き離して最大のテーマとなっている。新たな増分の大半は「技術的支援およびトラブルシューティング」からの移行だ。
いま、ユーザーがしていること
次に挙げるのは、2025年の上位100件入りしたユースケースの一部と、各ケースのユーザーのコメントの引用である(全リストはリンク先を参照)。生成AIがどのように使われているかが特にはっきりとわかる例を選んだ。
・セラピー/話し相手(1位): 「私の住む南アフリカ共和国では、メンタルヘルスケアはほとんどないに等しい状態です。心理療法士は10万人当たり1人で、精神科医は30万人当たり1人。LLMは誰もがアクセスできて、役に立ちます。残念ながら、健康が悪化して、生き残れるかどうかが日々の課題という時に、データの安全性などかまっていられません」
・生活を整える(2位):「お客様が泊りがけで来るので、それまでに家を掃除して整理できるように、スケジュール表の作成をつい先ほど(AIに)頼みました」
・学習の強化(4位):「データ分析を独学するためにオンラインコースを取っています。コースでは軽くしか触れていない部分をスタディガイド代わりのチャットGPTに説明させています。それを自分のノートに追加。学んでいる内容が補強されて、これまでのところ、ものすごく役に立っています」
・より健康的な生活(10位):「新しい食事プランを始めました。オンラインの『食事プランナー』のスプレッドシートで主要栄養素を計算していると頭がおかしくなりそうになったけど、いまは、私の一食当たりの主要栄養素の必須量をもとにしたレシピを(AIに)出してもらって、リストを持って買い物に行くだけ。それで、エアフライヤーと炊飯器でお料理。超簡単です」
・旅行計画の作成(24位):「チャットGPTに休暇の詳細な旅程表の作成を頼みました。田舎の素朴な宿泊施設や飲食店、目玉の観光スポット、知る人ぞ知る穴場など、いろいろ細かい注文をつけ、しかも運転時間はできるだけ短くするという条件で。すると、パーフェクトなプランを出してきました」
・罰金の不服申し立て(83位):「交通違反の罰金通知(PCN)が届きました。理由はバス専用道路に侵入したからです。せいぜい20秒ぐらいしか停めていないのに、80ポンド請求されました。チャットGPTに不服申し立ての手紙を書かせて送ったら、今朝、PCNは無効になったという通知が来ました。ありがとう、AI。自分で不服申し立ての長い退屈な文章を書くくらいなら、おそらく罰金を払っていたと思います」
目的と意味
目的探しや自己の向上のためにLLMを使う人が増えている。
「セラピーと話し相手」は、現在1位のユースケースだ。このユースケースには2つの別個の、だが関連性のあるユースケースが含まれる。セラピーは心理的問題に対処するための構造化されたサポートと指導であるのに対し、話し相手は持続的な社会的・感情的つながりを網羅し、恋愛的な側面を含むこともある。筆者は2024年も2025年もこれらを一つにまとめた。両者とも、感情的なつながりとサポートに対する人間の基本的ニーズを満たすものだからだ。
AIモデルのセラピーが悲嘆やトラウマに対処するために役立ったと語る投稿者は少なくない。AIベースのセラピーの明らかな利点は、3つある。年中無休で利用できる、あまり費用がかからない(無料の場合もある)、そして他人に批判・評価される可能性がない。AIをセラピーに使う現象は、中国でも見られる。コンピュータ化されたセラピーにどこまでの能力があるかについては議論が続いているが、最近の研究では、AIによるセラピーの介入は、人間が書いたセラピーの回答と区別がつかないほど洗練されたレベルに達しているという、安心をもたらす見解が出ている。
プロフェッショナルサービスの一部が生成AIで提供されるケースが、ますます増えている。セラピー、医療アドバイス、法律相談、税金のガイダンス、ソフトウェア開発などがそうだ。プロフェッショナルサービス事業を展開するEYでは、すでにこの変革が進行している。EYのグローバル・ラーニング・アンド・デベロップメント・リーダーでありサイモン・ブラウンによると、EYでは従業員に生成AIのスキルを訓練して、約40万人のスタッフのプロフェッショナルサービス業務をサポートするさまざまな分野別エージェンティックAIを使いこなせるようにしている。税務関係のタスクでの使用に特化した150のAIエージェントの導入もその一部である。
ユースケースの新たな項目の最上位は、2位の「生活を整える」である。大半は、日々の習慣や新年の抱負、内省など、自分の目的をより明確に意識し、それに取りかかるための小さく手軽な方法を見つけるために、AIモデルを利用するというものだ。そのために、家庭では個人的に購入した生成AIのサブスクリプション(チャットGPT、クロード、パープレキシティなど)を使用し、職場では主にマイクロソフトコパイロットを利用している。
マイクロソフトでモダン ワークおよびビジネス アプリケーション担当コーポレートバイスプレジデントを務めるジャレッド・スパタロウは、こう言う。「AIの利用において最も魅力的なシナリオの一つは、職場での個人的アシスタントにすることです。ユーザーの仕事のあらゆるデータ、つまりメールやチャット、ファイルやミーティングに接続された時、AIは単調だが骨の折れる仕事からユーザーを解放し、かけがえのない思考のパートナーになります。従業員が時間を取り戻し、より生産的でクリエイティブになれるようにしてくれます」
もう一つの注目すべき新たな項目は、3位の「目的を見つける」だ。自分の価値観を見極めて定義すること、障壁を乗り越えること、そして自己開発に踏み出すこと(AIに次にすべきことを助言してもらう、問題をリフレームしてもらう、集中できるように支援してもらうなど)は、この項目に頻出する。
リストの下のほうの項目でも、AIは人間の繊細な側面を支えている。AIを利用して自信を養う(18位)、深みのある有意義な会話をする(29位)、故人との交流を図る(33位)などだ。
ほとんどの専門家は、AIがテクノロジー領域で最も優秀なツールになると予想している。たしかにAIはその領域で活躍しているが、筆者らの調査は、AIが人間の生来の思いつきや願望についても、同等かそれ以上に助けになる可能性を示唆している。
自分の頭で考える
LLMは人間の思考能力に有益なのか、それとも有害なのかについては、大きな意見の食い違いや対立がある。あるユーザーは率直に、AIに「過度に依存するようになった」と言う。また別のユーザーは「たしかに、どんどん依存するようになってきた。複雑なタスクがあると、自分の頭で考えるよりGPTに頼ってしまう」と言う。その一方で、このテクノロジーによって個人の学習や思考を強化できることも認められ称賛されている。「もし学習のツールとして利用しなければ、キャリアアップできないし、知識は行き詰り、限られたものになってしまうだろう」との声もある。
この不安は、若い世代の間で、いっそう顕著に表れている。完璧で質の高いリポートがオンデマンドで書けてしまう世界で、大学教育にどのような影響が及ぶか(23位)を懸念する人は少なくない。また親たちは、生成AIが子どもの学業面での発達に与える影響(41位)を心配している。LLMはK-12(幼稚園年長から高校卒業レベルまで)の宿題など、一瞬で終わらせてしまうからだ。
しかしこの領域でも、生成AIは助けになるかもしれない。AIは人間がより深く、明晰に、不安を覚えずに思考することも可能にするからだ。フォーチュン500企業でAIアドバイザーを務めるアリー・ミラーは、そのユースケースについて、こう指摘している。
「最高の仕事ができるのは、心理的な安全がある時です。AIを使う仕事でも何ら違いはありません。批判されず、制約されずに探索できる環境は、途方もない夢や、困惑を呼びそうな質問、おぼろげで十分に熟していない目標を自由に試す場として打ってつけです。こうしたユースケースは未来を予言しています。すなわち、新しいウェブサイトにしろ個人生活の変革にしろ、アイデアの種が価値ある行動に発展するまでのコストがゼロに近づく未来です」
高度なユーザー
2025年の生成AIユーザーは、生成AIとその作成者やエコシステムをより深く理解する一方で、懐疑的になった兆しがある。
最も痛烈で冷笑的な意見は、LLMについて認識されたポリティカル・コレクトネスにまつわるものだ。これは、2024年の米国の大統領選挙戦の過程で目立つようになったのかもしれない。その結果として、生成AIは少なくとも次のようなユーザーを失った。「(生成AIの)サブスクリプションをキャンセルしたのは、ポリティカル・コレクトネスゆえです。この世界を、いつもビクビクしていなければならない、堅苦しい場所へと変えようとするツールを支持したくない」
データプライバシーの問題も繰り返し浮上する。生成AIへの期待が熱を帯びると、ビッグテックは集めたデータで何をするつもりなのかと警戒する声がしばしば上がる。この問題については、抗議の大合唱が起きた。その内容は、実にレディットらしい以下の皮肉たっぷりのコメントに集約されている。
「もう手遅れだ。銀行に握られている。クレジットカードにもグーグルにも、ビング、T-モバイル、歯医者や医者にまでも…。深呼吸して、思い出してみよう。テキストメッセージにメール、ボイスメール、アプリ、写真、動画、位置情報履歴、閲覧履歴、保存したパスワード、連絡先、カレンダー、SNSのアカウント、リマインダー、購入リスト、支払方法、ポイントカード、歩数、睡眠データ、スクリーンタイム、ストリーミングの好み、そして食品の注文にまで、私の個人情報が入っている」
皮肉なことに、もう一つのよくある不満は、LLMがユーザーを十分に知らない、すなわち、十分なメモリーを保持していないことだ。「メモリー保存の規制をこれほど厳格にするのは、ばかげている」
予想通り、2025年のユーザーはLLMの仕組みについて、より深く理解している。AIが人間の役に立つためには、人間側が明確な意図を持つ必要があるという基本的な点を理解する人が増えていると思われる。「もちろん、自分が何をしたいのかわかっていないと、役に立たない」。そして引用されるプロンプトは、本調査に挙げた多くの例に見られるように、質がかなり向上している(多くの場合、明らかにLLMのサポートを得ながらプロンプトを作成している)。
とはいえ、オンラインのパブリックフォーラムは、単純化された両極端の意見が飛び交う場でもある。生成AIは「これほど素晴らしい発明はないし、使わない人がいるなんて信じられない」と称賛されたり、まったくの役立たずで「このテクノロジーがもたらすよいものは一つも思いつかない」と断罪されたりする。さらに悪い時には「悪意のないユースケースを一つも思いつかない」とまで言われる。
次はどうなるか
オンラインフォーラムでは、根拠の乏しい予測がたえず交わされる。
たいていの予測は極端に悪いか、極端に素晴らしい結末を描く。バランスの取れた予測でよくあるのは、アドバイスや情報を提供するだけでなくAIには実際に動いてほしいという願望である。エージェンティックな行動を取ってもらいたいというのである。たとえば、あるユーザーは「料金が発生し始める前に、このサブスクリプションをキャンセルしてくれる」モデルがほしいと言う。
2024年、筆者が立てた予測は正確だが面白みのない無難なものだった。AIは発展し続け、AIの適用も発展し続けるという見立てだったのである。2025年もまったく同じ予測をしている。ではまた2026年にお会いしよう。
"How People Are Really Using Gen AI in 2025," HBR.org, April 09, 2025.