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文化が異なるチームと交渉する時
グローバル化した世界で、企業は成長を求めてますます海外市場に目を向けている。しかし、国境を越えた取引をまとめることは難しい。文化的背景が異なる人たちのグループと交渉する場合、交渉の結果だけでなく、そのプロセスに対する期待も異なっており、それを踏まえたうえで交渉を進めなければならない。両グループ間で、共通の言語と共有する慣習の両方が欠けている場合もあり、それによって、すでに複雑な取り組みがさらに複雑なものになる。
多くの交渉者は自力でこうした溝を埋めようと、誰かの経験談や一般的な方法論に頼りがちだ。しかし、それらは目の前にある実際の交渉にはほとんど関係がない。あるいは、学術的な理論やその他の理論を参照する場合もある。それらは文化的な違いを説明しているように見えるが、文化全体を一般化しており、個人ごとの違いを無視している。こうしたことから、交渉に当たる人々は、交渉が難しい原因を過度に文化の違いのせいにしてしまうことがある。
筆者らが研究したある契約交渉では、ドイツ人の交渉者が中国人との交渉において、取引の停滞や相手との問題の原因を、自身が中国文化を理解していないことにあると考えていた。中国人の交渉者は、ドイツ人の提案が国際的な基準に沿ったものであっても、それを繰り返し拒否した。その一方で、中国の現地基準に合っていると主張する条件の受け入れを求めてきた。その証拠を求められると、中国側は不快感を示し、自分の言葉を信じるべきだとドイツ側に述べた。
交渉が進み、いくつかの点について合意に達した後でも、中国人の交渉者は特に合理的な理由を示すことなく、合意済みの内容を蒸し返し続けた。彼は一貫して、自身に有利になるよう契約条件の修正を求め、それに対してドイツ側が提示した代替案は拒否した。そうして、ゆっくりではあるが着実に、自分の側に価値を移していった。ドイツ人の交渉者が異議を唱えるたびに、中国人の交渉者は、それが中国式のやり方で長期的なパートナーシップを築くために必要なのだと主張した。
かなりの時間が経過したのち、ドイツ人の交渉者は交渉の専門家からコーチングを受けた。そこで認識したのは、相手が文化の違いを言い訳にして、実際には問題のある敵対的なやり方で交渉を進めていたことだった。
では、交渉者は文化の複雑さをどのように乗り越えればよいのだろうか。筆者らはこれまで50年にわたり、異文化間の交渉や多文化チームに関する研究、教育、アドバイスを実施し、さらにみずからも交渉を行ってきた。こうした仕事を通じて筆者らが認識するに至ったのは、異文化環境でよい成果を得るためには、次の4つの基本ルールを守る必要があるということだ。
第1に、文化的な違いではなく、個々の人物に注目すること。第2に、相手が認識している優位性を利用しようとしているのか、それとも双方にとっての価値を生み出すことに関心があるのかを見極めること。第3に、相手の慣習に合わせるのではなく、交渉のための共通の基準をつくること。第4に、両者の選好の違いを活用し、全員にとってよりよい成果を導き出すこと。これら4つのルールに従えば、安定的で長続きする合意を形成することができる。
では、なぜ文化よりも人をよく見るべきなのかという点から始めよう。
〔ルール 1〕文化ではなく人と交渉する
文化とは、人がそれを通じて世界を理解し、世界と関わるためのオペレーティングシステムであると定義できる。文化は、私たちが日々の業務に取り組む際に、行動や物の見方に影響を与える。非常に強い文化は、自民族中心主義、すなわち誰もが自分たちの慣習に従っている、あるいは従うべきだという考え方を助長する可能性がある。これは対立の火種となる。