心のすき間につけ入る者たち

 多くのCEOが過保護を受けているため、社内でいちばん孤立した存在である。だれも第1次情報は報告したりしない。たいていの人が核心を隠す。このような特殊な立場だけに、相談相手を置かずにその職務をまっとうできるCEOなど、いくらベテランといえども、まずいない。

 それゆえ、信頼できる友、つまり自分の考えや心配を気兼ねなく打ち明けられる相手と親密になる。ただし、そのような関係を公言するCEOはめったにいない。おそらく、だれかに頼っていることを知られたくないからだろう。とはいえ、実業界であろうと政界であろうと、たいていのリーダーは信頼できる腹心に、アドバイスや意見を仰いでいるものだ。

 親しい腹心を求める心は、子どもの頃に芽生える。どんな子どもでも、だれかと親しいと感じ、自分が理解されている、大切にされている、そして愛されていると実感する必要がある。

 両親がこのようなニーズを満たしているとはいえ、完全ではない。思春期になれば、親友を探すことでこのニーズを満たすものだ。たいていそれは同性である。さらに、長じて人生の苦難に直面した時、人はやはり大人の友人に救いを求める。

 優秀なCEOたちは、自分の強みと能力をさらに伸ばしてくれる腹心を見つけ出す。ビル・ゲイツはスティーブ・バルマーにそのような役割を期待している。ウォーレン・バフェットは副会長のチャーリー・マンガーに意見を求める。つまるところ、これら2人のCEOとその組織は、このような腹心から恩恵を受けている。

 これまで8年間、トップ・マネジメント向けのコンサルティングを提供し、また精神分析の開業医としてビジネス・リーダーたちを診てきて、私はCEOと腹心の関係がとてもうまく機能している例を数多く見てきた。

 このような腹心たちはリーダーに仕え、常にCEOにとって最善となることを念頭に置いていた。彼らは無私の心で補佐役に満足を見出し、CEOの奥深い秘密を知りうる立場を濫用することなく、己の立場をきちんとわきまえていた。

 しかし残念ながら、同じくらい多くの腹心たちが、CEOが最も無防備な瞬間につけ入り、傷つけ、その力をないがしろにしていた。マスコミに暴かれることこそないが、彼らは裏でCEOや組織に甚大な損害を与えていたのだ。しかもCEOたちは、相談を媒介とする人間関係がいつ、どのように危険なものに変わってしまうのか、だれよりも疎いのだった(囲み「手遅れになる前に:5つの危険な兆候」を参照)。