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変化の時代に価値を創造し続ける
プロダクトマネジメント
現代のビジネス環境では、不確実性が常態化している。技術革新の加速、クラウドなどの情報インフラの進化、生成AIのような新たな知的基盤の出現、価値観や働き方の急激な変化により、従来の延長線上に未来を描くことは難しい。これまで有効だった「進捗通り」「計画通り」といった尺度での成果評価は、もはや現実にそぐわないものとなりつつある。
こうした不確実性の高い状況は、必ずしも過去から続いてきたものではない。日本の高度成長期には、将来の経済成長への確信があり、企業は中長期的な設備投資を迷わず進めることができた。市場は安定し、組織も長期雇用などで支えられていたため、意思決定の不確実性は比較的低かった。したがって、本稿で紹介する、複数の立場を橋渡ししながら不確実性の高い環境下で複数の立場をつなぐ「プロダクトマネジメント」の役割は、あまり求められていなかった。
さらに当時は、社会全体でモノが不足しており、事業の目的はそれを満たすことにあった。家電製品に代表されるように、プロダクト開発の方向性は明確で、必要な機能やスペックを満たすことが価値に直結していた。一方、現代の生活はモノであふれ、顧客自身もニーズを明確にできないことが多い。また顧客は利便性や感動といったコトを求め、ニーズは多様化しているため、従来の市場ニーズに基づいたプロダクト設計は困難で、仮説検証と柔軟な方向転換が必須である。
ここで本稿の中心テーマとなる「プロダクトマネジメント」について、定義を明確にしておきたい(プロダクトとプロジェクトは混同して用いられることが少なくない。両者の違いに関する筆者の整理については後述する)。プロダクトマネジメントとは、顧客や組織にとっての「意味ある変化=価値」を継続的に生み出すために、その仮説を構想し、検証しながら実装へとつなげていく一連のマネジメント活動を指す。もともとはソフトウェアやプロダクト開発の現場で発展してきた考え方だが、現在では、組織を横断して価値創出を支える意思決定の枠組みとして、多くのビジネス領域に応用されている。不確実性が前提となったいまだからこそ、再評価され、重要性を増しているのである。
実際、新しい事業を立ち上げようとすると、さまざまな不確実性に直面する。市場の受容性、顧客ニーズの変化、技術的な実現可能性、競合の出方、組織内のリソース確保など、判断すべき要素は多岐にわたり、しかも予測が困難である。こうした「読めない未来」の中で意思決定を繰り返す役割がプロダクトマネジャーだ。プロダクトマネジメントと同様に、もともとはソフトウェアやプロダクト開発において、組織を動かし価値を実現していく職種だった。しかし近年では、新規事業の立ち上げや制度設計など、不確実性の高い意思決定が求められるあらゆるビジネス領域において、その姿勢や考え方が応用されている。
プロダクトマネジャーは、単なる進行管理者ではない。顧客の課題を深く理解し、そこから導かれる価値仮説をチームと共有し、その実現に向けて意思決定しながら推進していく「価値の責任者」である。
ビジネスにおける不確実性は避けられない。そのため、計画とはそれを遂行することではなく、変化に柔軟に対応し、顧客や社会にとって価値を継続的に創造することだ。状況の変化に応じて課題を特定し、仮説を立て、検証し、方向修正を繰り返すことが必要である。
本稿では、不確実な環境下で価値を創出し続ける「価値の責任者」としてのプロダクトマネジャーの役割に注目し、プロダクトマネジメントの本質を明らかにする。