そのプロジェクトは本当に独自性があるか

 人は自分のことを実際よりも特別だと思い込む傾向があり、心理学ではこれを「独自性バイアス」と呼ぶ。プロジェクトマネジメントの分野では、自分のプロジェクトは唯一無二のものだという信念としてこのバイアスが現れる。これは、ある側面では意図的な選択でもある。独自性や新規性を打ち出したほうが支援や資金を得やすいと考えられるからだ。しかし、この独自性バイアスは、プロジェクトマネジメントの仕事や、その関連文献に深く根づいてもいる。

 米国のプロジェクトマネジメント協会(PMI)は、プロジェクトを「独自の製品、サービス、または成果を生み出すための一時的な取り組み」と定義している。英国のプロジェクトマネジメント協会(APM)も同様に、プロジェクトを「独自の、一時的な取り組み」と定義している。プロジェクトをマネジメントの課題として初めて扱った研究では、プロジェクトの有限性を「プロジェクトマネジャーの職務における独自の側面」と位置づけている。さらに、経済学者アルバート O. ハーシュマンは、古典的著書『開発計画の診断』[注1]において、自身が調査したプロジェクトはすべて「独自の経験と結果の連なり」であったと結論づけている。

 実際にどれほど多くのプロジェクトが独自性を持っているのかを明らかにするために、筆者らは34社における1300件超のITプロジェクトに関するデータを分析した。各プロジェクトの予算規模は7万7000ドルから45億ドルまでと多岐にわたる。そのうえで、北米、欧州、中東、アフリカ、アジア、オーストラリアと周辺の太平洋諸島に所在する219件のプロジェクトについて詳細に分析し、マネジャーがそのプロジェクトを独自のものと認識しているかどうか、そしてその認識がプロジェクトの成果にどのような影響を及ぼすかを調査した。

 調査結果は考えさせられるものであった。筆者らの分析によれば、実際には独自性のあるプロジェクトはほとんど存在しないにもかかわらず、マネジャーは自分のプロジェクトが唯一無二であると考える傾向が非常に強いことが示された。その結果、他のプロジェクトから学べることはないと考えてしまう。そして最も重要なのは、リスクを過小評価し、機会を過大評価することで、誤った判断を下してしまう点である。

 具体的には、マネジャーがプロジェクトを独自のものと考えるほど、予算超過の可能性が高まり、その超過額も大きくなる傾向が見られた。このことから筆者らは、プロジェクトの成果を改善するには、関係する活動を管理することよりも、プロジェクトマネジャーの意思決定の方法を見直すことのほうが重要であるとの結論に至った。

 本稿ではまず、独自性の認識とプロジェクト成果との関係を明らかにし、独自性の認識が、実際にはいかに根拠を欠いているかを示す。続いて、独自性バイアスが生じる理由について仮説を提示し、最後にプロジェクトマネジャーが独自性バイアスを克服するためのアドバイスを提案する。

独自性バイアスのコスト

 プロジェクトに対する独自性の認識がどのような影響を及ぼすかを定量化するため、筆者らは前述の219件のプロジェクトマネジャーに、「このプロジェクトは独自であり、したがって他のプロジェクトと比較するのは難しい」という文に対して、1~10の尺度でどれだけ同意するかを評価してもらった。その結果、全体の27%のプロジェクトが7点以上の評価を受けた。

 次に筆者らは、認識された独自性と、プロジェクトのパフォーマンスとの関連性を検証した。パフォーマンスは、達成された成果、コスト超過、スケジュール遅延によって評価した。その結果は、プロジェクトリーダーによる独自性の認識とパフォーマンスの低下との間に相関関係があるという、筆者らの仮説を裏づけるものであった。

 10点満点の評価で1点増えるごとに、平均してコスト超過率が5%ポイント増加することが明らかになった。つまり、10点の評価を受けたプロジェクトでは、1点のプロジェクトと比べて、平均してコスト超過率が45%ポイント高かったことになる。懸念すべきことに、10点の評価を受けたプロジェクトの37%では、コスト超過が極端であり、予算を75%以上超過していた。