リーダーに不可欠な「信頼」も醸成する
アイシンクの教育・研修プログラムでは、そうした「狩猟型プロジェクトマネジャー」を育成するため、PMBOKをはじめとする体系化されたプロジェクトマネジメントの方法論を学ばせるほか、それらをいったん身につけたうえで、自分なりの考え方や哲学を確立させる機会も設けている。

九州大学大学院卒業後、NKK(現JFE)にて舶用エンジンの製造、新製品開発、国内・海外のプラント建設プロジェクトに従事。2000年にプロジェクトマネジメントに特化した研修やコンサルティングを行うアイシンクを設立。製造・IT・製薬・商社などさまざまな日本を代表とする企業で研修やプロジェクト成功のサポートを実施。著書は『プロジェクトはなぜ失敗するのか』(日経BP、2003年)、『狩猟型プロジェクトマネジャーの哲学』(生産性出版、2010年)など。
具体的には、実務経験豊富な講師とのマンツーマンで、学んだ方法論を実務に当てはめながら、プロジェクトマネジメントの演習を行わせ、評価する。
「さまざまな企業が過去に取り組んだプロジェクトの例を取り上げ、どこに学ぶべき点があるのか、自分だったらどう取り組むか、といったことを考えてもらいます。その思索の中から、自分なりのプロジェクトマネジメントの方法論や哲学を導き出していくのです」と伊藤氏は説明する。
プロジェクトが失敗する大きな原因の一つは、チームを牽引するプロジェクトマネジャーが、何をしたいのか、どのように進めようとしているのか、といったことがあやふやで、チームメンバーのベクトルを合わせることができないことだ。リーダーの方法論や哲学がしっかりと定まっていなければ、チーム全体の動きにも悪影響が出てしまう。
もう一つ、アイシンクがプロジェクトマネジャーの教育・研修プログラムで、特に重視しているのがリーダーとしての「信頼」の醸成である。
「チームメンバーが一体となってプロジェクトに取り組むためには、指揮役であるプロジェクトマネジャーに信頼を置けるかどうかが重要なポイントとなります。信頼には、特定のプロジェクトを遂行するために必要な『専門的信頼』のほか、正直で、約束は必ず守るといった『人間的信頼』、メンバー間の利害をしっかり調整できるといった『構造的信頼』の3つがありますが、これらのバランスがしっかり取れたプロジェクトマネジャーの育成を目指しています」(伊藤氏)
信頼あるプロジェクトマネジャーの下でチームが動けば、「『建設的なコンフリクト(論争)』が巻き起こり、プロジェクトが成功する可能性が高まりやすい」と伊藤氏は言う。
不確実性の質が大きく変わり、プロジェクトの難易度が高まっている今日においては、どの課題を優先して解決すべきか、どんなリソースや技術を用いるのか、どこにゴールを設定するのか、といったメンバー同士の言い争いも先鋭化しがちだ。決まりきった「正しい答え」がない中で、それぞれのメンバーが自分の立場から最適解を訴えようとするのだから当然である。
「言い争いは、チーム内の空気を悪くし、プロジェクトそのものの進行を妨げる原因の一つになりますが、一方で、いろんな意見が出るからこそ課題解決の糸口が見つかりやすいという利点もあります。いかにチームの雰囲気を壊さず、建設的な意見を遠慮なく言える環境を整えるかが大事なのです。そうした場づくりにおいても、プロジェクトマネジャーに対する信頼が重要な礎となります」と伊藤氏は語る。