「永遠の化学物質」PFASを使わない職場環境をつくる方法
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サマリー:フォーエバー・ケミカル(PFAS)は、環境汚染やがんなどの健康被害をもたらす有害物質でありながら、いまも広く使われており、企業のリスクは増大している。これに対し、ハーバード大学は建材の成分開示を求めたり、... もっと見る家具を入れ替えたりするなど、PFASを全体として回避する戦略を実践している。本稿は、筆者らの経験をもとに、あらゆる組織が実行可能なその具体的な戦略と実践例を紹介する。 閉じる

「永遠の化学物質」によるリスクをどう軽減するか

「フォーエバー・ケミカル」(永遠の化学物質)のリスクが蓄積している。フォーエバー・ケミカルとは、自然界では分解が非常に困難な有機フッ素化合物(PFAS)のことを指す。米国では、推定2億人が口にする飲料水に安全なレベルを超える量のPFASが含まれており、99%の米国人の血液中にPFASが含まれている。また、あまり知られていないが、私たちが購入する製品が原因となり、PFASは屋内の空気中や塵埃の中にも広く含まれている。

 現在、フォーエバー・ケミカルを使用している企業は、かつてアスベスト(石綿)や鉛含有塗料やPCB(ポリ塩化ビフェニル)を日常的に使用していた企業と同じ状況に陥るだろう。すなわち、一時はその機能を高く評価され、広く使用されるが、やがて健康と環境に重大かつ広範なリスクをもたらすことが明らかになるのだ。数十億ドル規模の訴訟と最終的な使用禁止の措置により、これらの物質は使われなくなり、代替品が普及するが、有毒物が消えることはなく、数十年経っても存在し続ける。フォーエバー・ケミカルも同じ道をたどりつつある。米国では30州以上の司法長官が製造業者を提訴している。最大の製造業者である3Mはつい最近、100億ドル規模の損害賠償を求められていた訴訟で和解したが、今後さらに訴訟が増えると予測する環境専門弁護士もいる。

 フォーエバー・ケミカルを含む製品の製造業者は、その通告を受けてきた。だが、いまなら、フォーエバー・ケミカル含有製品を購入する組織のほぼすべてが、この問題に先手を打つことができる。

 本稿は、フォーエバー・ケミカルの入門書となる内容であり、従業員や顧客を危険にさらすリスクを低減させるために、組織が実行可能な方策について助言を行う。すでにハーバード大学のほか、グーグル、米健康保険大手カイザーパーマネンテ、そしてメタ・プラットフォームズがこれを実行に移している。

なぜフォーエバー・ケミカルは危険なのか

「フォーエバー・ケミカル」という言葉は、本稿の筆者の一人であるジョセフ・アレンが5年前に生み出した造語だ。フッ素と炭素(その結合がPFASの構成要素となる)の頭文字を取って、その決定的な特徴を表現している。すなわち、これらの物質の化学結合は、有機化学でも最も強力なため、完全に分解されることは永遠にない。

 こうした結合の強さは、非常に有用な特性をいくつかもたらす。フォーエバー・ケミカルで商品の表面を塗装すると、ほとんどのもの(油、汚れ、水、べたべたした食品)を弾くようになる。このためフォーエバー・ケミカルは長年、焦げつき防止フライパンや、消火用泡薬剤、汚れ防止や撥水加工を施した家具用の布地、ペンキなどの塗装剤やコーティング剤、カーペットや床材、壁材や断熱材、食品包装、アウトドアウェアなどに使用されてきた。

 PFASは分解されない一方で、製品から別の物質に溶出したり、環境中に流れ出たりするため、製造施設や空港、消防署周辺の水や土壌のほか、農場で使われる下水汚泥、さらには北極圏や海洋、そして雨水にも含まれている場合がある。筆者らは、それだけなく、フォーエバー・ケミカルがあらゆるタイプの建物内の空気やほこりにも含まれていることを発見した。それは飲料水や食品とともに、フォーエバー・ケミカルが人間の体内に入り込む経路の一つになっている。

 ひとたび人間の体内に入ると、フォーエバー・ケミカルは深刻な被害をもたらしうる。腎臓がんや精巣がんのリスク増加に関連しており、体重増加にも影響を及ぼす可能性がある。ハーバード大学の研究チームによると、減量プログラムに参加している女性のうち、フォーエバー・ケミカルの体内濃度が高い女性は、減量してもリバウンドしやすいことがわかった。フォーエバー・ケミカルの一部は、総コレステロール値とLDLコレステロール(いわゆる悪玉コレステロール)に関連している。どちらも心疾患の危険因子だ。これらの化学物質は免疫系を妨害する可能性がある。その体内濃度が高い子どもではワクチンの効き目が低くなり、私たちの生殖に関する健康面では月経周期が変化し、精子の質が低下することを示す研究もある。

 こうしたリスクが知られているにもかかわらず、フォーエバー・ケミカルの使用は、依然として世界的に増え続けている。米国では、現在、環境保護庁(EPA)が規制しているのは水中の使用のみで、しかも対象となっているのは1万種類以上あるPFASのうち6つだけだ。

より安全な材料を使うプレーブック

 フォーエバー・ケミカルは有毒だが、建物に広く使用されており、人間の体内にも存在し、規制だけでは問題を解決できない。だが、建物からフォーエバー・ケミカルを取り除くことは困難でもなければ、大きなコストがかかるわけでもない。ハーバード大学では、過去10年間、敷地内で50件以上の大規模建設プロジェクト(床面積約46万平米以上)と多くの内装改修プロジェクトが、2段階のシンプルな戦略に沿って行われてきた。また、その過程で、同様の目標に向かって取り組んでいる複数の大手企業と協力してきた。

1. 透明性を要求する

 建材を購入する時、食品の成分ラベルのような情報が提供されることはめったにない。たとえ建材に関する情報が提供される場合でも、フォーエバー・ケミカルが含まれているかどうかの情報が含まれることはめったにない。つまり建設主は事実上、何も知らされずにプロジェクトを進めている。