目に見えない「職場のモヤモヤ」にどう対処するか
iStock/marchmeena29
サマリー:「チームがなんだかうまくいかず、モヤモヤする」という状況において重要なのは、なかなか表にでてこないモヤモヤの本当の原因を探り、解決することです。そこで取り組むべきものが目に見えにくいことをテーブルに載... もっと見るせ、みんなで話し合って問題解決を図る「組織開発」という手法です。本稿では、『いちばんやさしい「組織開発」のはじめ方』(ダイヤモンド社)から一部を抜粋し、事例とともに組織開発を始める重要性について解説します。 閉じる

職場に生じる「モヤモヤ」の正体とは?

 まず、あるマネジャーの物語から始めましょう。これはフィクションですが、著者が日頃見聞きするマネジャーにありがちな経験を、一人のストーリーとして集約したものです。

 佐藤さんは39歳。大手機械メーカーの営業部門で働く15年目の中堅社員です。マネジャーに抜擢されて2年目、メンバー8人を率いるリーダーとして働いています。
 しかしこのところ、佐藤さんはモヤモヤした気持ちを抱えていました。昨年あたりから売上実績が伸び悩むようになったのです。既存の顧客との関係は良好で、大きな失敗があったわけではない。業界全体の景況感も決して悪くない。どうもメンバーのやる気が薄れていることが原因のようです。
 メンバー構成は、佐藤さんより年上が3人、同期が2人、20代の若手が3人。そのうち1人は、今年入った新入社員です。
 年上の3人にはやはり気をつかいますが、幸いみんな協力的な姿勢でした。佐藤さん自身も、良いチームをつくりたいと考え、メンバーとのコミュニケーションを十分に取るように心がけてきました。
 ちょっとおかしい、と感じ始めたのは、マネジャーになって1年ぐらい経った頃でした。入社3年目の若手メンバーの渡辺さんが毎週のように欠勤するようになったのです。無理をしないようにと伝えましたが、本人は「大丈夫です」と言います。そのうち勤務状態は元に戻りましたが、心配は消えませんでした。
 コロナ禍を経てリモート化も進み、週1回のオンライン会議以外は、みんなが顔を突き合わせて話し合う場は持ちにくい状況でした。
 オンライン会議では、それぞれの業務の進捗を確認し、営業方針を共有する。そのプロセスは間違っていないはずですが、だんだんとメンバーからの発言が少なくなっていきました。佐藤さんの指示に異論は出ません。といって、会話は盛り上がらない。
 それでも、メンバーは粛々と計画を遂行してくれているはずだ。佐藤さんはそう信じていました。
「田中さんが、不満を漏らしているぞ」
 そう教えてくれたのは、同期の江本さんでした。
 田中さんは、年長メンバーの1人で、実力は折り紙付き。リーダーシップもあり、ほかのメンバーへの影響力も強い。どうも、佐藤さんの営業方針に不満があるようで、若手もその発言に賛同しているフシがある、とのこと。
 佐藤さんは戸惑いを覚えました。「新規顧客の開拓に注力する」という営業方針は、中期経営計画による会社施策であり、それを踏まえてメンバーに指示していたからです。しかも、みんなの負担を考えて、強引な指示などはしていないと考えていました。
 そのうち、売上数値が明らかに落ち始め、予算達成が危うくなりました。そこで佐藤さんは、田中さんと1対1の面談をするも、田中さんはこちらの話にうなずくばかりで、その本心は見えませんでした。
 江本さんに相談すると、「会社の方針を曲げるわけにはいかないけれど、田中さんたちの言い分も聞いて、少し配慮してあげたらどうか?」と言われました。
 そうかもしれないけれど、それで業績回復につながるのだろうか。どうも、そうは思えません。
 考えあぐねた佐藤さんは、部門長に相談しました。次期役員候補と目される実力者です。
「リーダーがそんな弱腰じゃ困るな」
 オンラインによる面談で開口一番、こう言われてしまいました。
「会社の方針は間違っていない。ベテランの仕事を尊重する必要はあるけれど、そこをうまくやるのが管理職の務めだろ」
 反論はできませんでした。とはいえ、メンバーになんと言えば良いか、どんな指示をすればやる気を取り戻してくれるかがわかりません。自分に落ち度があるとも思えないのです。
 それから1ヶ月後、若手のリーダー格である村井くんから、会社を辞めるとメールが来ました。転職先も、すでに決まっていると言います。
 もはやチームは、バラバラになってしまったように感じられました。佐藤さんは頭を抱えるばかりです。

「人材開発」とは異なる、「組織開発」というアプローチ

 これは若いリーダーを主人公にした架空のストーリーですが、「なんだかうまくいかず、モヤモヤする」というこの感じ、みなさんもおわかりいただけるのではないでしょうか。

 思い悩む佐藤さんはリーダーとしての経験が浅い、と感じた方もいるかもしれません。

 リーダーとしてまだ2年目の佐藤さんは、これから経験を積めば、きっとうまくマネジメントできるようになるでしょう。また、研修を受けることでマネジメント手法を身につけることもできるはずです。これらは、いわゆる「人材開発」の領域の話になります。

 ただ、経験と研修によって佐藤さんがスキルアップするには、少し時間がかかりそうです。モヤモヤをただちに解消することは難しいと言えるでしょう。

 そしてもう一つ、このモヤモヤは佐藤さんが一人で抱え、解決しなければならないのでしょうか?いくら佐藤さんがチームリーダーだからといって、それは酷な気がします。

組織のモヤモヤの原因は「目に見えない」ことが多い

 この事例において、佐藤さんが率いるチームは、どのような課題を抱えているのでしょうか?また、どうすれば課題が解決するのでしょうか?

 佐藤さんの事例での課題は、次のように推移していきました。

①メンバーの一人が休みがちになった
②売上実績が徐々に下がり始めた
③メンバーが密かに不満を漏らすようになった
④業績悪化が明らかになった
⑤リーダー格の若手が転職

「売上実績が徐々に下がり始めた」という事態に対して、たとえば佐藤さんがメンバーに発破をかけたとしたら、業績は回復するでしょうか?根本的な原因が解決されていないため、おそらく難しいでしょう。

 売上実績が下がり始めた原因を佐藤さんが分析し、その改善策を考えるにも限界があるように思われます。仮にその改善策が良かったとしても、それがメンバーの「やる気」まで回復させるかどうかはわかりません。

 メンバーの一人が休みがちになったという問題についても、体調の問題なのか気持ちの問題なのかは当の本人にしかわかりません。いくら佐藤さんがマネジメントを頑張ったとしても、どうにもしがたい印象があります。

 この状況で必要なのは、「目に見えにくいことの調整」 だと言えます。

 業績低迷とメンバーのやる気低下は、別個に検討すべき課題であるように思われますが、その2つはおそらく無関係ではありません。同じ要因に根ざしている可能性もあり、それは表面上ではとらえきれない要因である可能性もあるのです。

 つまり、一人ひとりの仕事に対する思いであるとか、「もっとこうしたら良いのでは?」というようなアイデアなど、なかなか表に出てこないところにモヤモヤの本当の原因があるのかもしれません。

 そこで「組織開発」という手法が浮上します。個人のスキルを向上させる「人材開発」とは別に、組織そのものに着目して「良い組織」を目指して実施するのが組織開発です。

 組織開発では、「目に見えにくいこと」をテーブルの上に載せ、みんなで話し合って問題解決を図ります。

『いちばんやさしい「組織開発」のはじめ方』

[著者]早瀬信、高橋妙子、瀬山暁夫
[監修・解説]中村和彦
[内容紹介]どんどん人が辞めていく、社員にモチベーションがない、などのモヤモヤを、対話のチカラで解消していくのが「組織開発」。本書では、悩みを抱える職場への処方箋として、「組織開発」のはじめ方を成功事例とともに紹介します。組織開発の第一人者と、プロフェッショナル3名によるいちばんやさしい組織開発の入門書です。

<お買い求めはこちら>
[Amazon.co.jp][紀伊國屋書店][楽天ブックス]