人員削減の圧力から、チームに不可欠な人材を守る方法
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サマリー:経済の不確実性が高まり、技術が急速に進化する中、多くの企業で人員削減の圧力が強まっている。しかし安易な解雇は、コスト削減の効果を上回るリスクを生み、長期的な成功を危うくしかねない。部門のリーダーには、... もっと見る数字だけでは見えない人材の戦略的価値を経営幹部に示し、チームを守る役割が求められている。本稿では、重要な人材を解雇の対象外とするための3つの基本戦略を、具体的な事例とともに解説する。 閉じる

重要な人材を解雇の対象外にする3つの基本戦略

 経済の不確実性が高まり、急速に技術が進歩する中で、多くの経営幹部は、最も費用のかかる項目である「人員」の削減に関して、強いプレッシャーをかけられている。部門によっては適切な再編が有効かもしれないが、より深刻な結果に直面するところもある。それが業務遂行に不可欠なチーム人材の喪失である。

 部門のリーダーは、そこで厳しい課題に直面する。日々の業務に精通していないことも多い経営幹部に対し、重要な役割を担う人員を削減すれば、利益をはるかに上回るリスクをもたらす可能性があると説得しなければならないのだ。数字上、ある役割を担う人材を辞めさせることは、コスト削減のように見えるかもしれない。しかし、現場は、重要な人材を解雇することで勢いを失い、文化が損なわれ、長期的な成功を危うくするおそれがある。

 筆者らは、同様の状況に直面する多数の企業を支援する中で(ランディスはエグゼクティブコーチおよび基調講演者として、フェルナンデスはエグゼクティブアドバイザーおよび人材育成専門家として)、人員削減時に部門リーダーが最も重要な人材を維持するための3つの基本戦略を特定した。

1. 説得力のある根拠を構築する

 調査によると、企業の戦略遂行能力と成果の95%以上は、全体の5%未満の人材に起因する。リーダーとして、成功に不可欠な人材を維持するための説得力のある根拠を示す責任がある。そのために、まず明確にすべきことがある。「失うわけにはいかない存在は誰か」だ。重要なのは、肩書きや在籍期間は関係なく、会社の重要な取り組みを推進し、同僚によい影響を与え、容易には代替が利かない人間関係やスキルを持つ人材である。

 はじめに、その人物が日々の業務にいかに不可欠であるかを特定しなければならない。筆者らのクライアントのエミリー(マーケティング・コミュニケーション担当シニアバイスプレジデント)の場合は、直属の部下による貢献が組織の目標とどう結びついているかをすべて把握するために、戦略マップを作成した。この戦略マップは、個人の職務と組織の戦略的成果のつながりを明確にし、その人物がいなくなるとどこにリスクや混乱が生じるかを明らかにする。

 以下は、ロバート S. キャプランとデイビッド P. ノートンの戦略マップをもとにした、簡略版のツールだ。筆者らはこれをクライアントと使用し、5つの重要な側面における影響を評価した。各側面について、その人物が組織を去った場合のビジネスリスクのレベル(低、中、高)を評価する。それぞれの評価は、その個人の役割と会社の最重要事項とを結びつける明確な解説が添えられている。

 筆者らは各側面について、その人物を失った場合のリスクのレベルをクライアントとともに評価し、その理由を説明する簡潔な解説を作成している。このマッピング作業によってリーダーは、リスクを示す明確な言葉と具体的な証拠を得ることができる。これは、パフォーマンスの面だけでなく、その個人が最も重要なものをいかにして守り、リスクを軽減し、戦略的な進歩を確実にするかを示すものだ。なぜなら、リソースが逼迫し、難しい選択肢に迫られている状況では、ある人が「価値がある」と言うだけでは不十分だからだ。