初めてのルームサービスの仕事

 最初の試練がやってきた──。

 まず2日間のオリエンテーションを受け、さらに2日間、ベテラン客室係のスティーブ・ポズナー氏について回った後、いよいよ私自身で夕食を運ぶことになった。

 2人分の軽食(チーズバーガー、サラダ、ビールとミネラルウォーター各1本)を載せて従業員用エレベーターで上っていく間、私はスティーブから教わった台詞と動き方についてもう一度頭のなかで反芻する。

 スティーブは私の眉間のしわを目ざとく見つけ、廊下に出た私がルームサービス用のカートをぎこちなく押していくと、こう言ってくれた。「そう硬くならないで。相手をよく見て、お客さんのムードに合わせるんですよ」

 私は1036号室のドアをノックし、小声でつぶやいた。「失礼いたします。ルームサービスでございます」。ドアを開けたのは明るい表情のご婦人だった。がたつくカートを押しながら部屋に入ると、敷居を越える時にミネラルウォーターのビンを危うく倒すところだった(本当はカートを引いて入るのだ)。

 夫とテレビのクイズ番組を見ていた婦人は、私が研修生であることをスティーブから聞くと、私をリラックスさせようとクイズ番組の話を向けてくれた。しかし私には、気楽に会話を交わすほど心の余裕はない。目の前のことで精一杯だった。

「栓を抜きましょうか」。私が尋ねる。婦人が応じる。「えーと、ええ、よろしければ……」

 それから私はカートの上を見回し、次にやるべきことを思い出そうと、わずかに口を開いて手を後ろに組んでたたずんだ。婦人も立ったまま、促すように私を見ている。スティーブも探るような目をじっと私に投げている。あぁ、そうだった。 運んできた料理の説明をしないと。「こちらがシーザー・サラダ、こちらがグリルドビーフ・チーズバーガーで、お肉はミディアム・レアです」