AIは人間よりも合意形成の促進に長けている
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サマリー:人間は、利害が複雑に絡み合う集団での意思決定を不得意とする。そうした状況で強力なツールとなりうるのがAIである。膨大なデータを分析し、無数のシナリオをシミュレーションすることで、対立しがちなステークホル... もっと見るダー間の合意形成を促進できるのだ。実際、ドイツのハンブルク市はマサチューセッツ工科大学(MIT)と提携し、AIプラットフォーム「シティスコープ」を導入することで、難民流入による住宅危機という喫緊の課題を乗り越え、住民参加型の都市計画を実現した。本稿では、このハンブルクの事例をもとに、AIが集団の意思決定プロセスをいかに民主化し、向上させるかを明らかにする。 閉じる

人間は集団での意思決定が不得意である

 集団による意思決定は、完璧な科学からはほど遠い。破綻したプロセス、データの過多、情報の非対称性やその他の不公平によって、目標を異にする大規模で多様な派閥同士が協働を試みる際に生じる課題が、ますます複雑化する。そして意思決定にしばしば役立つツール──データ分析やシナリオプランニング、決定木など──は、集団やリーダーが直面する最も困難な問題の規模と複雑性の前では、うまく機能しない可能性がある。

 ここでAIが役立つことができ、実際に役立っている。現状に関する膨大な量のデータを分析し、集団の意向を理解し、それらの意向に照らして何百もの将来の可能性を検討するために高度なシミュレーションを行い、参加者間の合意形成を促進する──これらの能力を持つAIは、複雑な意思決定、とりわけ共同で行う必要のある決定に直面するすべてのリーダーにとって強力なツールとなりうる。

 AIによる集団的意思決定の支援をすでに活用している分野の一つは、都市計画だ。筆者らは3年前、都市の最も差し迫った課題の解決にAIがどう役立っているのかを知るために、全米市長会議と協働を始めた。その過程で、難民の流入によって悪化した住宅危機に対処してきたドイツの都市、ハンブルクの事例を研究した。

 ハンブルクは2016年、シティスコープ(CityScope)というAIプラットフォームを開発したマサチューセッツ工科大学(MIT)メディアラボと提携した。都市計画者はこのプラットフォームによって、幅広い住民のニーズと意向を収集して把握し、何百もの建設シナリオをシミュレーションし、隠れた機会を特定し、対立する派閥間の合意点を見つけ出すことができる。

 シティスコープはハンブルクでどのように機能しているのか。それを示すことで、政府、非営利団体、大学や企業のリーダーに向けて、データとAIを活用して意思決定のプロセスと結果を民主化し、向上させる方法を提示することが筆者らの狙いである。

ハンブルクの危機

 2016年、ドイツは中東からの難民100万人を受け入れる決断を下し、ハンブルクは人口200万人弱の市内に予測される8万世帯分の住居の確保を任された。当時、市は数十年にわたり都市計画法をめぐる非生産的な議論に陥っており、ハンブルク市民向けの住宅さえ十分に建設できずにいた。

 集団的意思決定の状況では、3つの課題が表面化しやすい。ハンブルクも例外ではなかった。

プロセスとインセンティブが破綻している

 物事を達成するための従来のプロセス(本稿のケースでは新たな住宅の建設)には、何十もの工程と組織が関与し、それぞれが独自の手続きの論理と内部文化を伴う。たった一つの技術的不備でプロジェクトが数カ月、場合によっては数年遅れることもある。ステークホルダーたちは協力し合うインセンティブを持っていない。ハンブルクでは、各プロジェクトに10を超える官僚組織の承認が必要で、それらは往々にして硬直的かつ不透明だったため、何を建てるにしても難航した。

情報がますます増え、平等に行き渡らない

 個々の意思決定(本稿のケースでは、特定の開発や都市計画法に関する決定)は、住民の意向、技術文書、交通量や利用状況の指標などを含む諸分野の膨大な情報を伴う。そのうえ、もろもろのプロセスは長く詳細な専門的文書で記されている場合が多く、一般の人に理解できるとは思えない。より多くのリソースを持つ者は、知識に基づいて意見を形成するために必要な情報を得る時間、金と専門知識を有しているが、他の地域住民はそうではない。