カスタマー・エクイティへ焦点がシフトする

 CRM(カスタマー・リレーションシップ・マネジメント)への関心を強めることは、相対的に製品を重視する姿勢を弱めることになる。

 見方を変えれば、技術が急速に発達する世界にあって、新製品は次々と生まれ消えていくが、顧客は残るということだ。どんな製品が取り上げられ、いかに製品へのニーズが変わろうとも、成功の秘訣は顧客とのリレーションシップを効果的に保っておくことにある。

 ちょうど自動車の人気が〈プリマス・ロードランナー〉から〈クライスラー・ボイジャー〉、そして〈メルセデス〉へと変わっていったように、商品に対する顧客の嗜好は長期的に変化していくものだ。

 したがって現代の企業に求められているのは、たとえ個人顧客の特定商品へのブランド・ロイヤルティが変化しても、カスタマー・リレーションシップを維持することである。

 このように、経済発展に伴って産業におけるサービスの比重が高まるにつれ、企業経営の焦点は否応なくブランド・エクイティからカスタマー・エクイティへシフトする。

 しかし、ブランド・エクイティのように業界識者や研究者たちによって十分に研究された概念と異なり、現時点ではカスタマー・エクイティを理解する努力はほとんどなされていない。

 本稿の目的は、そうしたカスタマー・エクイティを理解するためのフレームワークを提供し、長期的な利益率を最大限に拡大するCRMの考え方を示そうとするものである。

カスタマー・エクイティとは何か

 企業の長期的価値は、その顧客との関係性がもたらす価値によってほぼ決まる。その総和を我々は「カスタマー・エクイティ」と呼んでいる。この言葉は最初、ロバート・ブラットバーグとジョン・デイトン[注1]によって使われたが、その定義とはいくぶん異なる。

 我々はカスタマー・エクイティを「その企業の全顧客の(物価上昇率で割り引いた)生涯価値の合計」と定義している。

 言い換えれば、現時点での利益だけでなく、長期にわたって顧客が企業に与えるであろう売上高を考慮したものだ。これらを総計した価値が、我々の言うカスタマー・エクイティである。