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顧客ニーズを包括的につかむカスタマー・シナリオ
この10年で、多くの企業がCRM(カスタマー・リレーションシップ・マネジメント)に熟達してきている。顧客の嗜好や購買行動について膨大なデータを集めて分析し、顧客セグメンテーションを絶えず見直し、製品やサービス、マーケティングなどを改善してきた。それでも、依然として何かが抜け落ちている。
そう、顧客がどのような状況のなかで商品やサービスを品定めし、購入し、使用するかといった、顧客を包括的に理解する視点が欠けているのである。
ほとんどの企業は「よりよい商品やサービスを提供したい」と考えている。しかし、それらが実際にどのように使われているかといった点にまでは目を向けていない。その結果、売上げを増やしたり顧客ロイヤルティを高めたりするチャンスを幾度となく逃しているのだ。
シンプルな例から説明していこう。2人の買い物客(仮にA、Bとする)が冷蔵庫を求めて、ベストバイの店舗を訪れたとする。販売員にとっては同じように見えるこの2人、実は対照的ともいえるニーズを持っている。
Aは、昨夜壊れた冷蔵庫の代わりを買うために来店した。時間をかけてさざまざな機種を見て回ろうというつもりはなく、とにかくアイスクリームを冷やしておければそれでよい。一方で、Bはマイホームを新築中であり、新居で使う冷蔵庫を探しにやってきた。買い急ぐ必要がないため、じっくりと時間をかけて機能や価格を比べることができる。
もしAとBに同じ対応をしてしまったら、ベストバイは大きなビジネスチャンスを逃すことになるだろう。時間的な余裕のないAにとっては、「すぐに配送してもらえるかどうか」が何よりも大切なポイントである。そこで、その場ですぐに宅配便を手配して午後にでも届けると約束すれば、たとえ配送料がかなり割高についたとしても、すぐにAから購入の意思を引き出せるだろう。
また、Bはすぐに売上げをもたらすというわけではないが、クロスセリングを行ったり強いリレーションシップを構築したりするうえでは、格好の顧客だといえる──おそらく、冷蔵庫だけではなく、ほかにもさまざまな家電商品を買い揃えようとするからだ。ベストバイとしては、Bに対して無料のコンサルティングを行って、新居に必要な家電製品一式についてカスタマイズしたプランを提示し、配送スケジュールを調整し、一括購入に対して割引を設定してもよいくらいである。
ただし、それらの対応は、それぞれの顧客のニーズを知っていてこそできることだ。ニーズを知らなければ、どの顧客にも型どおりの対応をしただけで終わってしまう。
顧客がいま現在身を置いている状況は千差万別であり、現状に至る経緯ももちろん異なっている。本稿ではそれを踏まえた顧客分析を「カスタマー・シナリオ」と名づけることにする。ベストバイの例では、顧客A、Bのシナリオにそれぞれ「急ぎの買い換え」「マイホームへの入居準備」といったタイトルをつけられるだろう。
一般的なカスタマー・シナリオに、どのようなものがあるかを詳しく知っていれば、多くの顧客に対して、その生活シーンや業務シチュエーションに深く斬り込んで、時間の節約方法や、製品やサービスの効果的な利用方法についてアドバイスできる。