改革スピードを上げるため大事だった経営チームづくり

編集部(以下色文字):振り返ると、7期連続の減収減益から2021年3月期は営業赤字に転落しました。続く22年3月期~24年3月期の中期経営計画の3本柱として「組織風土改革」「国内外構造改革の着手・完遂」「再成長の戦略や成長市場への種まき」を掲げ、24年3月期からは過去最高の営業利益を挙げて、まさにV字回復を遂げました。アフターコロナの需要回復という追い風があるにせよ、いまもその勢いは止まりません(図表1「V字回復を果たし、計画を次々と前倒し」を参照)。21年3月期までの結果や経緯を、次期計画やその実行にいかに反映して成果につながったのでしょうか。

(以下略。正しくは一点しんにょうの「つじ」):営業赤字になった2021年3月期を最終年度とする中期経営計画は、私が初めて策定に当たりました。いま振り返っても、そこで示した方向性そのもの──マーケティング機能の強化・再構築や、アニメ・デジタル事業の確立、物販事業の再構築や海外事業の強化などは間違っていなかったと確信しています。その通りに実現できていれば、よい結果は出ていたはずです。

 しかし、結果として目標は未達に終わりました。その最大の原因は、私自身の踏み込み不足に尽きます。当時の会社の状況を考えると、もっと具体的に「何を」「いつまでに」「どういうパートナーと」「どの規模で」やるべきかを示す必要がありました。

 たとえばマーケティング機能について言えば、2017年に新設したマーケティング部でブランドの再定義やプロモーション施策に取りかかり、外部から1人採用したマーケティング担当者も尽力してくれたのですが、私と2人だけではチームとしての力を十分に発揮できませんでした。会社全体を巻き込んだ思いきりのよい改革ができていなかったうえ、その最中にコロナ禍にも突入してしまいました。これは完全に私の失敗であり、大きく、そして具体的に改革を進めることの重要性を痛感した期間でした。

 2020年7月に社長に就任したことで、私はリーダーシップの重みが変わったと感じました。それまで「もっとこうしたい」ともどかしく思って、改革のスピードを上げなければならないと痛感していたので、いよいよそれを実行に移す時でした。そこで何よりも大事だと考えたのが「チーム」の存在です。

 社内にいる人材の力ももちろん必要でしたが、創業から60年間ででき上がってきた考え方や習慣は、内部の力だけではそう簡単に変えられません。かといって、少しずつ外部の血を入れても、変革のスピードは上がらない。だからこそ、社外取締役も含めたボードメンバーとなる人材を一気に採って変えることが重要だと考えました。

 ボードメンバーには、2021年6月以降、若い取締役が次々に加入して、現在までにそれぞれ専門領域を持った30~50代の取締役に総入れ替えとなりました。どのように人選してチームを組成しましたか。

 多くは、サンリオで一緒に仕事をしたことを契機に、声をかけさせてもらったメンバーです。

 たとえば戦略全般や人事、ブランド管理を担う中塚(亘・専務)は、当時の中期経営計画の策定段階でアドバイザーとして関わってもらっていました。私が抱える課題感や戦略的な思考を深く理解してくれていましたし、彼が入ってくれたらこれほど心強いことはないと感じていました。当時は赤字でしたから、来てくれるだろうかと少し不安に思いながら打診してみたところ、快く引き受けてくれました。

 また営業担当の大塚(泰之・専務)は、先ほど「方向性は間違っていなかった」と申し上げた2021年3月期までの中計を一緒に立てたメンバーです。小売業の経験も豊富で、特に我々の物販事業の改革には、彼の力が必要不可欠だと考えていました。

 彼らに限らず、私が外部から採用する際に大事にしているのは、能力や経歴だけではありません。その人がこの(東京)大崎のオフィスで、私たちと一緒に働いている「イメージが湧くか」どうか。感覚的な話に聞こえるかもしれませんが、これは私の中では非常に重要です。ものすごく優秀な方でも、なぜかしっくり来ないこともあるのです。今回参画してくれたメンバーは皆、一緒に働くイメージが明確に湧きました。

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変えるべきものと変えてはいけないもの

 経営陣を刷新し抜本的な改革を進めれば、社内から反発が出るのが常です。全社一丸となって進むために1年半かけて全社員と対話をしたそうですが、その反応や手応えはいかがでしたか。

 私自身、入社してから7期連続で減収減益でしたから、「この会社はどうなるのだろう」と不安を抱いていました。きっと社員の皆も同じだったと思います。改革を「経営陣がつくった一方的な計画」にしたくなかったので、まずは社員一人ひとりの声を聴くためにアンケートでコンディション調査を実施しました。結果、企業理念への共感や人間関係の良好さがうかがえた一方で、「社長からの発信が足りない」「会社の戦略や部門ごとの目標が曖昧」「評価基準が不明瞭」といった問題も浮き彫りになりました。

 そうした不安や不満も含めて、なぜいま改革が必要か、なぜ外部から幹部を登用したのか、私の言葉で直接伝えることが重要だと考えて、社員4~5人と私との「社長対話」を約700人に対して実施したのです。中期経営計画で据えた収益目標を達成することはもちろんですが、アンケートに書かれていた従業員の不安を一つひとつ解消していく。それを絶対にやり遂げると心に決めました。

 驚いたのは、その社長対話で話していると、特に社歴の長い従業員から「こういう改革を待っていました」と積極的に支持してくれる声が多く聞かれたことです。実のところ、「なぜこんなに変えるんだ」ともっと批判されるだろうと想像していたので、これは非常に心強い後押しとなりました。現場の、特にミドルマネジメント層が改革を支持し、みずから引っ張っていこうとしてくれる。これほど強い推進力はありません。

 2024年3月期までの中期経営計画では、創業者であり祖父でもある辻信太郎前社長(現名誉会長)が掲げた企業理念「みんななかよく」を実現するため、新たにビジョン、ミッション、バリューも策定しました。その狙いはどこにあったのでしょうか。

 先のコンディション調査結果でもあらためてよくわかったのは、「みんななかよく」という企業理念に共感している従業員が非常に多いということです。しかし同時に「自分自身がそれを体現できているか不安だ」と感じている人も少なくありませんでした。そこで、日々の業務が「みんななかよく」にどうつながっているのか、その道筋を明確に示したいと考えました(図表2「企業理念等と各戦略の位置づけ」を参照)。

 私たちが持っている価値観(バリュー)を実践できれば、それがミッションである「エンターテイメントに新たな価値を。次世代の楽しさや喜びをみんなで共創していく」につながり、さらにはビジョンである「One World, Connecting Smiles.」の達成につながる。その結果として、企業理念である「みんななかよく」が実現できる。この、バリューからミッション、ビジョン、そして理念へと続くつながりをていねいに説明することで、たとえば店頭にいらっしゃるお客様の笑顔や、従業員同士が称賛し合う笑顔も、すべてが「みんななかよく」につながっていることを示したい。浸透はまだまだ道半ばですが、全社で理念に向かって成長を追求していくために、この点の共有は必要不可欠でした。

 人事制度も刷新しました。組織風土に変化の端緒は感じられますか。

 先のアンケートで「頑張っても報われない」、逆に「失敗しても責任を問われない」といった声が挙がっていましたし、現場にも必要な能力を持った人材を積極的に採用していくうえで、評価・報酬制度に手を入れました。職位者は成果で評価し、それに連動した報酬が得られるようにしました。そのほか硬直的だった人材の流動性を高めるため、物販など不採算部門を中心としたスリム化やコーポレート機能の効率化を進める一方、成長領域のIP(知的財産)関連は人材を増強しました。

 組織風土改革は、構造改革の一丁目一番地でした。キャラクターブランドを取り巻く課題を共有し、挑戦が称賛される社風に変革していかないと、会社は復活できない、と考えていたからです。改革からわずか数年間ですが、私自身はよいほうへの変化を感じています。以前は指示待ちの姿勢に課題を感じていましたが、積極的にチャレンジしたり、わくわくして仕事に取り組んだりといった雰囲気は高まってきていると思います。無論、100点ではありません。こういう改革は常によくて80点と考えて、残り20点は地道な改善で積み上げるほうがよいと思っています。

 もちろん、すべてを変えるわけではありません。変えてはいけない「サンリオらしさ」もあります。それは、我々が培ってきた笑顔のつくり方や、お客様とのコミュニケーションの取り方、クリエイティブの中で守り続けるべき核であったりします。単に「いままでこうだったから」という理由からではなく、「私たちがこれまでつくり上げてきた価値を、いまの時代にどう活かすか」という視点で判断すべきだと考えています。

 この中計の3本柱のうち中核を成していたのが「構造改革の完遂」です。具体的には、聖域化していた国内物販の効率化や、赤字が続いていた米国での物販事業やライセンス事業の見直しでしたが、それまで変革できなかったところに踏み込めたのはなぜですか。

 物販の赤字構造は早くから問題視していましたが、祖業でもあり抜本的に手を入れづらかったのは事実です。サンリオが保有するキャラクター約450種のうち、売上げの大半を占めるのは人気上位30種ほど。しかし従来は、前年の売上げを超えればよいという文化が根強く、新商品を出せば売上げが上がるため、SKU(最小在庫単位)は約5000に膨れ上がっていました。1カ月に新商品を400超も出すのに対し、サンリオショップにお越しになるお客様の来店頻度は月1回程度です。つまり、ほとんどお客様の目に触れないまま廃棄される商品も多く、そういう状況をなるべく早く変える必要がありました。

 そこでSKUを60%削減して新商品の投入頻度にメリハリをつけるとともに、商品開発の業務量を40%削減しました。赤字店舗の閉鎖や店舗在庫の削減はもちろん、ECの拡大など10の施策を実行しました。これには外部からも人材を登用して進めました。

 米国では物販の販管費率が高止まりしていたため、直営店の撤退や外部化、効率化などで、まずは止血することに注力しました。

 国内外とも、着手できたのが大きな一歩であり、後はスピード感を持って進捗を管理したことで、実行できたと思います。

急激な成長が続くと組織に歪みが生じかねない

 業績が好転したのち2023年5月には、中計の延長線上にある10年後の長期ビジョンとして「価値創造ストーリー」を掲げました。その目標(時価総額1兆円、営業利益500億円)を10年前倒しで達成できた要因について、計画が保守的すぎたのか、想像以上に業績回復が早かったのか、振り返っていかがですか。

 長期ビジョンは、中計では達成しきれないけれどもビジョンやミッションを実現するうえで見据えるべき見取り図を示すために作成しました。

 株価は我々でどうこうできるものではありませんが、もともと10年かけずに達成したいという思いはありました。「ハローキティ」をはじめ、これだけ強いIPを持つ企業の時価総額が1兆円にも満たないのはどういうことか、それには営業利益500億円ぐらいは必要だろう、と経営面の反省も含めてずっと思っていたからです。ですから、これは計算して出した数字というより、私の「思い」が強く込められた目標でした。想像していたよりは早く達成できたと感じています。それは、先に挙げた3本柱の改革を完遂できたことに加え、アフターコロナで北米や中国、国内の需要が増加したことが追い風となっています。

 そしていま、私たちは次の目標として「10年後に時価総額5兆円」を掲げています。これは、1兆円の目標を設定した時とは違い、ある程度ロジックに基づいて算出していますが、けっして保守的な数字ではありません。時価総額が2000億円から1兆6000億円になるのと、それがさらに5兆円になるのとでは、ステージがまったく異なります。これまでの「止血戦略」から、本格的な「成長戦略」へとフェーズが変わりました。より大きなチャレンジが求められ、やることもガラッと変わります。

 その中で最も重要視しているのが「安定永続成長」です。ここ数年、急激に成長してはきましたが、この勢いのまま走り続けると、いつか組織のどこかに歪みが生じかねません。会社の規模が8倍、9倍になったからといって、組織が同じスピードで強固になっているわけではないからです。

 そこで、今回の中計では営業利益率10%以上を安定的に維持することを一つの指標としています。ボラティリティの高い成長ではなく、機動的に会社を運営し続けるための土台を固めていく。それが5兆円という高い目標を達成するためには不可欠だと考えています。

 過去には、国内外のセレブがハローキティを身に着けたことをきっかけに大ブームが起こるなどして、収益のボラティリティは高かったですね。

 そうです。1960年に創業して以来、営業利益は激しいアップダウンがありました(図表3「収益ボラティリティの高さが課題だった」を参照)。2000年代、そして2011~14年に大きなブームがありました。こうした一過性のブームはキャラクターIPビジネスでは常にあることですが、サンリオにそれを持続させる仕組みがなかったのも事実で、数年するとブームは終焉してしまいます。しかも、これまではハローキティ中心、グッズ販売中心という価値提供の狭さから、キティの落ち込みを補えませんでした。長期的に成長していくには、さまざまなキャラクターや多くの顧客接点を確立することで、収益の変動をなるべく平準化し、安定的にグローバルで収益を挙げられる体制を目指しています。

 すでにキャラクターについては、約10年前に北米の売上げの9割以上がハローキティだった状態から、「クロミ」「マイメロディ」「シナモロール」などが、世界から6300万票以上の投票数を集めた「サンリオキャラクター大賞」の上位10位以内にランクインする力をつけています。いずれも何か特別な日に思い出すというよりは、お弁当箱や筆箱などお客様の日常に「寄り添う」ような存在であることがサンリオのキャラクターの強みです。ただこれからは、これらのキャラクターをテーマパークや動画、ゲームなどで楽しんで「夢中」になってもらう時間をよりいっそう増やしていきたいと考えています。

 業績予想や中長期の計画で、前倒し達成が続いています。どのように実績を管理し、予想や計画を見直したり、それを現場に共有したりしていますか。

 合理的な意思決定をスピーディにできる仕組みを、社長就任からほどなく設置しました。中計の進捗を管理し、即応する会議体を四半期に一度の頻度で開催し、必要に応じて関連部署とすぐ連携します。

 通常は、全社戦略をもとに各部署のKGI(重要目標達成指標)とその達成に必要なKPI(重要業績評価指標)を立て、それを四半期に分解して進捗を管理しています。計画より進捗が早ければ全社と各部の目標を再設定し、遅ければ幹部でリカバリープランを立てて実施します。

 長期ビジョンを10年前倒しで達成した際は、数値目標は達成したけれども「欧米での話題性が不足している」「成長がストックしていかない」「IPの属性の幅が狭い」といった課題がまだ残ったままでした。このため、それぞれの課題をブレークダウンした対応策を検討し、すぐに各担当部署に対応してもらいました。

さまざまな収益の「山」でボラティリティ苦から脱却

 これからの成長戦略の核として、キャラクターの流行に左右されない「グローバルIPプラットフォーマー」を目指しています。その狙いと進捗を教えてください。

 かつて我々は、キャラクターを開発して商品化し店頭に並べる物販を中心に、そのプロモーションを行ってきました。しかし時代は変わり、お客様とのタッチポイントは多様化しています。店頭のほか、配信やVR(仮想現実)といったデジタル上、ユーザーコミュニティなど世の中のさまざまなタッチポイントにおいて、いかにサンリオのキャラクターへの注目度を上げるか。SNSなどを通じてユーザー目線で話題性をつくり上げることができているのがいまのサンリオの強みであり、近年の好業績の要因です。

 グローバルIPプラットフォーム構想は、この流れをさらに加速させるものです。サンリオに触れて笑顔になってくれるお客様やその時間をもっと増やしたい。まだこれからの挑戦ですが、非常に面白い計画だと自負しています。教育、ゲーム、アニメ、テーマパーク等、さまざまな接点でエンターテイメントに触れることができるサンリオというプラットフォームに、自社のキャラクターだけでなく、他社のIPや個人クリエイターの作品が入ることで、コンテンツの集合体となって、ユーザーはもっと面白い体験ができる。さらにユーザーIDを連携させれば、よりパーソナライズした体験を提供できます。サンリオとしては、そこで高まったIPの価値をライセンスに還元していきます。

 キャラクター開発の手法も多様化していきます。我々が開発するだけでなく、外部のクリエイターの皆様を支援する形も広げています。生まれたキャラクターを世に出す方法も、店舗だけでなく、ゲームやバーチャルピューロランドなど多様な出口がありますから、デビューまでの道のりが多様化することで、IPの可能性も無限に広がります。

 これは、先ほど申し上げた「ボラティリティからの脱却」にもつながります。ハローキティのように50年かけて大きく育つキャラクターもいれば、アニメやマンガ発で1年で頂点に駆け上がるキャラクターもいます。こうしたさまざまな高さや形の「山」を我々はたくさんつくっていきたい。一つの山の人気に左右されるのではなく、ある山が落ち着いても、次の山が立ち上がってくる。長く安定した大きな山もあれば、瞬発力のある鋭い山もある。そうしたポートフォリオを組むことで、安定した継続成長を実現していきます。

 そのためのM&A(合併・買収)も積極的に検討しています。ただし、IPを獲得するためというよりは、我々に足りない「機能」を拡充するためです。映像制作やゲーム開発、バーチャル技術など弊社ではこれまで手薄だったテクノロジーを中心に強化するための投資は、今後も積極的に行っていきます。

 IPプラットフォーマーになるうえで重要な映像やデジタル領域においては、他社との業務資本提携などにより機能を強化しています。直近では、アニメ制作のIGポートやXR(現実と仮想の空間を融合させ、新たな体験を提供する技術の総称)/メタバース領域が強みのGugenkaとの資本提携があり、注力事業領域の強化を図っています。

 今後も、コンテンツ同士や、お客様などとの接点を横にも縦にも広げていくことが大切だと考えています。そして、IP関連にしろM&Aにしろ知見のある人材が不可欠ですから、人材の採用も積極的に行っています。

「監督」のような社長になろう

 辻社長が入社して現在に至るまでについても少し伺います。2013年に父の邦彦副社長(当時)が米国出張中に亡くなったのを機に、14年に急きょサンリオに入社し、わずか6年後に31歳という若さで社長に就任しました。若い頃から、将来は会社を継ぐと考えていましたか。また、どのように経営を学んできたのですか。

 サンリオに入社する以前は、食品メーカーの新規事業開発部門でネット通販事業の立ち上げなどを経験しました。いつかは家業を継ぐのかな、という漠然とした思いはありましたが、祖父や父から仕事の話をされたことはありませんでした。

 経営について専門的には学んでおらず、経験の中で肌感覚で学んできています。前職で事業の立ち上げからお客様に届けるまでの仕組みづくりを一気通貫で経験できたことは、私の大きな財産になっています。後は、お客様に楽しんで笑顔になっていただくにはどうすればいいのかを考えるのは昔から好きなので、キャラクターのプロモーションにはいまもこだわりを持っていますし、その点でサンリオの仕事は向いていたかもしれません。

 社長になる時、自分はどんなタイプのリーダーになるべきか考えました。先代である祖父は、さまざまなアイデアで会社を牽引したカリスマです。しかし、私にその真似はできない。自分自身の能力がものすごく高いわけでもない。そう自己分析した時に、私は「監督」のような社長になろうと考えました。野球で言えば、1番から9番まで、それぞれの選手の力を最大限に引き出せるよう采配を振る。人のモチベーションを最大限まで引き出すことに注力しようと決めました。ですから、いまの業績はけっして私の力ではなく、社員みんなが頑張ってくれた結果です。

 当初は経営会議で、信太郎・現名誉会長とぶつかることも多かったそうですが、どのように関係を再構築されましたか。

 私は祖父や父がサンリオで働いている姿を間近で見てきたわけではないので、最初は焦りからか、自分の「早く改革したい」という思いのほうが強く出てしまっていました。デジタル戦略など、当時80代半ばの祖父には理解しがたい話を私が突きつけてしまっていたんですね。それまで優しい祖父しか記憶になかったのですが、入社して初めて叱責されて「おじいちゃんも怒るんだな」と驚きました。当たり前ですが、会議で私と祖父がぶつかると、周りはひりつきます。祖父としても、いろいろな情報が入ってきて判断をすべき時に、会議でぶつかってすぐ出ていってしまうような人間は信頼できなかったはずです。これではいけない、何をやっているんだろう、と反省しました。一番信頼されなければいけない私が、祖父と喧嘩をしてどうするんだ、と。

 そこからは、毎日最低でも15分は祖父とコミュニケーションを取るようにしました。他愛のない話でいい、一緒にお菓子を食べるだけでもいい。そうやって関係性を再構築していく中で、祖父は私がやろうとすることを信じ、すべてを任せてくれるようになりました。

 いま、これだけ自由に改革を進められているのは、その時間があったからこそです。後継者問題に悩む経営者の方も多いと聞きますが、私の経験から言えるのは、結局は「なかよくする」のが一番だということです。それは、家族であっても、社員であっても、同じなのだと思います。


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PHOTOGRAPHER  AIKO SUZUKI

 

辻 朋邦(つじ・ともくに)
1988年11月1日生まれ(奇しくも「ハローキティ」と同じ誕生日)。慶應義塾大学文学部卒業後、食品会社勤務を経て2014年1月にサンリオ入社。2015年企画営業本部担当執行役員、2016年取締役、2017年専務取締役。2020年7月から現職。