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消費者は「ときめき」を求めている
ビジネスリーダーは常に、インパクトを生み出す方法を探している。そのために、消費者心理に関するデータを検討したり、経済指標をモニタリングしたり、予測モデルを実行したりする。しかし、こうした取り組みで本当に難しいのは、さまざまなノイズに惑わされずに、実際に人々の心に響くものを生み出すことだ。
本稿の筆者のうち2人(リッジ、キルマー=パーセル)が創業したスキンケア・ブランドの「ビークマン1802」では、一見シンプルに思える要素がインパクトを生むケースをたびたび目の当たりにしてきた。その要素とは、「ときめき」である。
ビークマン1802がこれまで実施した中でもとりわけ大きな反響を呼んだマーケティングキャンペーンの一つを紹介しよう。ビークマン1802は、2023年に自動車整備店チェーンのジフィー・ルーブと手を組んで、「オー!メガ・ミルク発酵フェイスオイル」という商品の販売促進を目的に、「オイルを変えよう」と題したキャンペーンを展開した。
消費者は、自動車のオイル交換をするつもりでジフィー・ルーブの店舗にやって来る。ところが、そこで待っているのは、お馴染みのビニール張りの椅子と自動販売機ではない。フルコースのスパ体験が用意されているのだ。そこには、マッサージのセラピストとフェイシャリストがスタンバイしている。
「オイル交換という言葉を聞いて、人々が真っ先に思い浮かべる場所はジフィー・ルーブの店舗です。そこで、同社とパートナーシップを結ぼうと考えたのです」と、ビークマン1802の最高マーケティング責任者を務めるブラッド・ファレルは言う。「ジフィー・ルーブにオイル交換に行ったつもりが、ビークマン1802のスキンケア・オイルのポップアップストアに足を踏み入れる――これほど予想外のことは他にないでしょう」
このキャンペーンは業界の賞を受賞し、ソーシャルメディアでも大きな話題になった。なぜか。それは、予想外のときめきの要素に満ちていたからだ。
美容業界は昔から、ときめきの要素の重要性をよく理解していた。化粧品大手エスティローダーの創業者の息子であるレナード・ローダーは、2001年の9・11テロ後にリップスティックの売り上げが増加したのを目の当たりにして、「リップスティック効果」という言葉をつくった。ひと言でいうと、危機の時に、手の届く価格帯の贅沢品の売上げが伸びる現象のことである。そのような現象が見られるのは、そうした買い物をすることにより、心の安らぎを感じ、ささやかな贅沢を味わい、士気を高めることができるからだ。
本稿のもうひとりの筆者(ジェンセン)は、市場情報サービス企業のサカーナで美容業界アドバイザーを務めており、美容市場のレジリエンスの強さをじかに目撃してきた。ジェンセンのデータによると、2025年前半、消費者心理が空前の冷え込みを見せるなかでも、小売り分野の消費支出は依然として増加していて、特に食品と美容の売上げ増が際立っているのだ。
加えて、消費者の75%は、「見かけがよいこと」よりも「気分がよいこと」のほうを重んじると述べている。この点は、ブランドとの感情面のつながりや、ブランド体験におけるときめきの要素を求める気持ちが強まっていることを示唆している。喜びの感情やサプライズ、あるいは充実した絆を通じて、ときめきを提供できるブランドは、顧客ロイヤルティと長期にわたる成長を推進しやすいのだ。
感情面における共鳴が消費者の行動を突き動かす傾向が強まっている時代には、ときめきがブランドへのエンゲージメントと競争力を高める強力な触媒になりうるのだ。これは美容業界に限った話ではない。食品、おもちゃ、出版などの業種を観察して、筆者らは4つの有効な戦略を見出した。それらの戦略は、ときめきを生み出すために、あらゆる企業が常に活用できるものだ。
日常の贅沢を憧れの体験へと変える
ときめきはたいてい、いたってシンプルな喜びから出発する。とりわけ目覚ましい成功を収めているブランドは、そのような小さな快楽を、商品そのものに留まらない体験に昇華させているのである。






