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チェンジ・リーダーとしてのジャック・ウェルチ
なぜ、成功している企業ほど、優秀な経営者とスタッフ、潤沢な資金、高い技術力を備えているにもかかわらず、時代の大きな変化に適応できず、衰退してしまうのだろうか。
技術革新が恒常的に出現するなか、それまで業界を支配していた巨大企業の企業戦略や特性が、滅びる構造にあるのはなぜか。
クレイトン・クリステンセンは『イノベーションのジレンマ』において、その原因を組織能力の柔軟性の欠如に求めた。
すなわち、変化に適応させる組織能力を構成している経営資源、プロセス、価値基準の3要素のうち、企業が成熟化するにつれて後者のプロセスと価値基準が固定化したまま組織文化が形成され、その結果、組織能力の柔軟性が失われるという主張である[注1]。
コンティンジェンシー理論は、事業環境と組織の適合性、企業業績との関係を主張するものだが、その原因を組織特性や組織デザインに求める。
さらに、「イナクト」(enacted)された環境を前提として発展したコンティンジェンシー理論では、事業環境を能動的に認知した時に組織構造が形成されるとした[注2]。つまり、産業や市場の変化は客観的に存在しても、経営者が構造的に意味づけを認識しない限り、それは単なる刺激に過ぎず、組織構造の形成に何ら影響も与えることはないことになる。
言い換えれば、変化の激しいなかでは、経営者が環境に対して積極的に意味づけをするか否かが、企業組織の盛衰を左右する決定的な要因となっているのである。
ウェルチがCEOに就任した80年代から今日に至る20年間を振り返ると、アメリカが貿易収支と財政収支の「双子の赤字」と高いインフレ率に苦しみつつも、ITを中心とする急激な技術革新、グローバル化の進展、規制緩和、ドル安の為替政策など、これらの事象をうまく結合させて、自国企業の競争力を再形成していった時期でもあった。
そのプロセスにおいて最も着目すべき点は、アメリカ企業が、70~80年代初頭における日本企業との同質化競争を通じて、工業製品の大量生産・大量販売というパラダイムからいち早く脱して、製品とサービスをバンドリングさせた新しいビジネスモデルを構築することに戦略の重点をシフトさせていったことである。
とりわけウェルチ経営で評価できるのは、アメリカ企業のなかで最も早い時点でこの新しいビジネスモデルに着目し、大胆にGEの戦略転換を図ったところにある。



