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変化に直面した人間に起こる3つの生物学的な現実
我々は変化が加速する時代を生きている。リーダーはそれを日々感じている。この5年間で、コロナ禍があり、それまで当たり前と思われていた働き方の規範が根本から覆された。また、生成AIが登場して、従来のビジネスに巨大な影響を与えることがわかった。そして地政学的な不安定性が高まり、ビジネスに関する決定をマヒさせてきた。
こうした混乱の中核には、曖昧性がある。入手できる情報は、不完全であり、矛盾があり、絶えず変化し、明確な答えを導き出すことができない。コロナ禍の後、出社勤務が再開された時、仕事がどのようになるのかわからなかった。そしていまは、AIによってどの仕事が自動化されるかわからないし、どの国となら、明日、法外な関税抜きで貿易できるのかわからない。
なぜそれが問題なのか。漠然とした時代には、安定した時代とは異なるタイプのリーダーシップが求められるからだ。曖昧な状況で前進するためには、新しいスキルセットが必要になる。人間性を無視するのではなく、人間性に寄り添うスキルだ。人間は機械ではないから、変化に対して生物学的に反応する。その反応をきちんと理解し、役立てれば、強力なアドバンテージが得られる可能性がある。
筆者らは合わせて数十年にわたりリーダーたちと協力してきた経験と、デザイン思考と人体生理学の交差点に関する研究に基づき、現代の変化と曖昧性を切り抜ける方法に影響を与える3つの生物学的現実を発見した。本稿では、その3つの現実を、リーダーが主導権を取り戻すのに役立つ実用的な戦略とともに紹介する。
問題を機会に変える
生物学的現実
人間は本来的に曖昧な要素を減らそうとする生き物だ。通常、曖昧な状況に直面した時、真っ先に出る反応は、創造や問題解決ではなく、生き残りを図ることだ。人間の脳は、新しいことや不確実なことに直面すると、「闘争・逃走・凍結」と呼ばれるストレス反応を活性化させる。潜在的な脅威を感知すると、脳の扁桃体が活性化して、コルチゾールとアドレナリンが分泌される。すると集中力が高まり、身体の迅速な反応が可能になる一方で、視野が狭くなり、高次の思考は抑制される。だから混乱が生じると(組織再編や市場急変など)、リーダーはオープンで斬新な考え方をするよりも、防御的で、不安にさいなまれ、身動きが取れないと感じる。
生物学を越え、現代の企業文化も人間をそのような状態にすることがある。株主は、「今後何が起こるかわからない」などというコメントは聞きたくない。従業員も答えを求める。株主や従業員、そして市場は、いかに不安定な状況でも、自信と確実性を求める。
反応をデザインする
生物学の観点では、人間は曖昧な状況を脅威と見なすが、デザイナーは変化を可能性と見なすよう訓練されている。本稿の筆者の一人であるボンソールが約10年勤めたデザインコンサルティング会社IDEOでは、クライアントの相談に取り組む時の第一歩は、「デザイン上の課題」と位置づけ直すことだった。
マイナス面(たとえば、「参加が減っている」とか「農機具の売上げが低調だ」)に注目するのではなく、楽観的な問題設定をする。「どうすれば楽しくて利用しやすい投票体験を生み出せるか」とか「どうすれば農家のビジネスの成長を助けられるか」といった具合だ。このようにシンプルに見方を変えるだけで、エネルギーと創造性が解き放たれる。難題をチャンスや人間のニーズとして再構成すると、アイデアが自然に生まれ、楽しさや勢いが生まれる。
研究によると、リーダーも訓練をすれば、脅威状態(ストレスが圧倒的に感じられる状態)から挑戦状態(同じような生理学的刺激がエネルギーとモチベーションを高める状態)に移行できる。「ストレスマインドセット」(ストレスのプラス面に注目する)や、認知的再評価(経験をよいこととして再構成する)、そして意識的な一時停止といった戦略は、意思決定やアイデア創出をつかさどる大脳皮質を再び刺激する余裕が生まれる。






