「勇気」が大きな違いを生む

 政治、経済、技術において不透明性が高まると、大胆な行動を避けようとするビジネスリーダーは少なくない。なかには途方に暮れて判断を放棄し、立ちすくんでしまうリーダーもいるが、大半はじっと身を潜め、混沌の嵐が通り過ぎるのを願う。会社の未来と自分のキャリアを守るために、縮小路線に走るリーダーもいる。

 だが、幸運は臆病者でなく勇敢な者を好むという古いことわざが正しいことは、いくつもの研究から明らかだ。

 これはいまから10年以上前に、筆者がニティン・ノーリア(ハーバード・ビジネス・スクール〈HBS〉教授)、フランツ・ウォールゲゾーゲン(メルボルン大学上級講師)との共同研究で明らかにした結果とも合致する。2008年の金融危機の中、上場企業4700社がそれまでの3回の景気後退をどのように乗り越えてきたのかを検証したものだ[注1]

 研究の結果、景気後退前よりたくましい姿になって3回の景気後退をくぐり抜けてきた企業が9%前後あることが明らかになった。彼らがそうできたのは、経費削減を慎重に行ったからという理由だけではない。それに加えて、成長に向けて計算されたリスクを取り、投資を行ったからだ。筆者らは意図せずして、ビジネスにおいて「勇気」がいかに大きな違いを生むかを、研究を通して記録することになったのである。

 以来一貫して、筆者は何が勇気ある行動の原動力となるのかを研究してきた。厳しい環境に立ち向かうのを尻込みするリーダーがいる一方で、大胆な行動に出るリーダーがいるのはなぜか。勇気というのは先天的な長所なのか、それとも後天的に教えられるものなのか。太古の時代から、ソクラテスやプラトン、アリストテレス、孟子といった哲学者はこの問いについて思索してきた。現代の科学的研究では、心理学から社会学、経済学、神経科学、医学まで幅広い分野において、後者の見方が支持されている。自分で自分を勇敢だとは思っていなかった人を含めて、さまざまなタイプの人が必要に応じて勇気ある行動を取れることが、各分野で示されているのだ。

 にもかかわらず、どうすれば普段よりも勇敢になれるのか、その方法を探ろうという研究はいまに至るまでほとんど行われてこなかった。

 筆者はここ数年間、社会科学と自然科学の既存研究を調査し、リーダーシップに関するさまざまな話を収集・分析してきた。研究の記録文書から拾ったものもあれば、200回を超える詳細なインタビューから得たものもある。そうして得られた洞察を煮詰め、仕事でより大胆不敵に行動したいと考える人のための行動指針としてまとめた。

勇気を持つという選択

 筆者は勇気を次のように定義している。すなわち「価値があると自分が思う目的のために、通常は消えることのない恐れを感じながらも、大胆でリスクのある行動をすすんで取ろうという意志」である。

 たとえば、肉体的な挑戦に向き合うこともあれば、感情的に自分をさらけ出すことや、みずからの信念を貫くために社会的評判や経済基盤をリスクにさらすこと、あるいは新しく型破りな考えを公然と支持することなども含まれる。そして、ネルソン・マンデラの有名な言葉の通り、勇気とは恐れがないことではなく、それに打ち勝つことなのだ。