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変革の必要性を最小限に抑える経営を目指す
『オニオン』誌の風刺記事「前年度の大胆な新計画による損害を回復させるために、CEOが大胆な新計画を発表」は、多くの企業で見られる一連の変革をパロディ化したものだ。リーダーは「前任者の政策が悪かった」「好況を見越して人員を採用したが、想定外に景気が失速した」「マクロ経済の不確実性が高い」「AIが台頭した」などと制御不能な要因を挙げてしきりに非難するが、真の戦略課題は手つかずのままということがあまりにも多い。
ひっきりなしに大改革を行えば、組織は活性化するどころか、変革疲れを起こして従業員の士気が低下してしまう。顧客やサプライヤーは次年度の方向転換によってどの戦略が生き残るかよくわからず、長期的な提携に及び腰になる。投資家はリスクの拡大を恐れて、将来の収益を割り引いて判断する。経営陣の時間と財務リソースはイノベーションや価値創造ではなく、組織整理や事業再編に伴う費用にそそがれてしまう。
変革がまったく不要だと言っているのではない。環境の重大な変化(革新的な技術の登場や破壊的な競合相手の台頭など)に対応し、持続的な成功に向けて事業をリポジショニングすべく、戦略や経営体制に根本的な変更を加えて望ましい成果を挙げたケースを、筆者らは数多く支援してきた。この種の変革がもたらす潜在的な見返りは明らかだ。
中国のBYD(比亜迪)を例に取ろう。同社は1995年にバッテリーメーカーとして始まり、2003年に自動車メーカーへと進化し、2024年にはテスラを抜いて世界最大の電気自動車(EV)メーカーとなった。適切に設計され、実行に移された変革は業界全体のあり方さえ再定義することもある。
しかし、プログラム変更による成功事例や失敗事例を何百件も経験してきた筆者らの立場から言うと、変革マネジメントの最善策は変革の必要性を最小限に抑えることだ。
本稿の目的は、変革依存症に陥った企業の経営幹部が悪循環を断ち切り、他の企業がそもそもそのような状態にならないようにすることにある。自然に進歩を重ねて、将来的に大変革の必要性が低減していくように、着実かつ統合的に戦略を調整しながら事業を継続的に強化する方法を考察したい。
そして、筆者らや他者の研究を踏まえて、ボストン・サイエンティフィック、ピクサー、マイクロソフトといった企業が、いかなる戦略によって、大規模な変革を最小限に抑えつつ、一貫して優れた成果を挙げ続けてきたかを解説する。これらの企業は、適応力に富む生物学的エコシステムに匹敵するビジネス環境を構築し、育むことで、トラウマになるような変革(中核となる戦略や組織構造、あるいは業務運営を抜本的に変える大規模プログラム)を回避してきた。
エコシステムの健全性は、組織がたえず変化を察知し、非生産的な活動を淘汰しながら、新たな成長の芽を育てられているか否かによって証明される。健全な状態にあれば、大規模な変革が必要になることは稀で、仮に変革が必要な場合でも、より生産的に実行できる。組織は現実世界とシンクロしながら進化し続け、進むべき方向に自信を持ち、未来の機会に向けて活気づいている。以下では、そうした自己再生型システムを構築するための4つの実践的な行動を紹介しよう。
1. システムマネジメントに習熟する
他の複雑な生命システムと同様に、企業も予測不能な力にたえずさらされている。その力は、最も適応力に優れた強者に味方する。筆者らの研究で明らかになったのは、成功しているビジネスリーダーは「熟練のシステム管理者」であることだ。みずからそう称するかどうかは別として、彼らは変化の激しい環境で成功するように自社のビジネスシステム全体を適応させている。企業全体の価値は、単に各部門の価値を足し合わせたものではない。部門間の相乗的な関係性の価値でもあることを理解し、個々の要素を別々に見るのではなく、全体のパフォーマンスを最適化していくのだ。
こうしたリーダーは不確実性を尊重し、確定的な予測よりも、むしろシナリオや確率の観点から話し合う。定期的に実験を行い、アイデアや戦略が低リスクで現実的なものかどうかを確認する。たえず情報を更新し、新しいデータによって従来の前提が成り立たなくなれば、自己のプライドを守るのではなく前提を修正するのだ。熟練したシステム管理者は、意見の相違を背信行為ではなく主体的に関与している証として歓迎する。そして、組織がばらばらに機能している競合他社よりも迅速かつ優れた形で、予期せぬ衝撃を乗り越え、機会をつかみ取れる自己修正型の有機体へと組織全体を転換させていく。



