-
Xでシェア
-
Facebookでシェア
-
LINEでシェア
-
LinkedInでシェア
-
記事をクリップ
-
記事を印刷
短期と長期の影響を慎重に見定める
編集部(以下色文字):製薬業界は、R&Dの不確実性に加え、薬価改定や安定供給の確保など構造的な制約が非常に多い産業です。さらに昨今は、米国の関税措置や地政学的リスクの高まりによるサプライチェーンの緊張なども加わり、業界を取り巻く環境の不透明性はますます増しています。宮柱さんは、いま日本の製薬業界が抱える課題を、どのように捉えていますか。
宮柱(以下略):日本の製薬業界が直面するさまざまな課題は、複数の要素が重なり合って生じているものだと捉えています。
まず、日本という市場の構造です。グローバルの医薬品市場は成長していますが、日本のそれは世界4位の規模があるとはいえ、この10年ほど大きな成長が見られず横ばいで推移しています。さらに、政府の方針によって薬価は毎年引き下げられ、その下がり方にも必ずしも予見性があるわけではありません。薬価が公定価格で決まるという制度も含め、これは世界的に見ても日本特有の難しさだと思っています。
こうした市場・制度の環境の中で、ドラッグ・ラグ(海外で承認された医薬品が、日本で承認・使用できるようになるまでの時間差)、ドラッグ・ロス(海外で使用されている医薬品が、日本では開発・申請されず、結果として使えない状況)が顕在化しているほか、創薬力の低下が危惧されるようになってきました。創薬はもともと日本が強みを持っていた分野ですが、近年はその競争力が相対的に弱まっています。
さらに、これらの課題すべてに影響を与えているのが、近年のグローバルな環境変化です。製薬産業はR&Dから製造、供給まで、国境を越えて多くのプレーヤーが関わる水平分業で成り立っています。国際情勢や地政学的リスクの高まりは、サプライチェーンを含め、事業そのものに直接影響してきます。特に日本の医薬品の原薬の多くを海外に依存している現状を考えると、外部環境の不確実性は以前にも増して大きくなっています。
こうした複数の制約が重なり合う中で、関係者の皆様とともに日本をいかに魅力的な市場にし、基幹産業として成長させていくか。私たちはいま、その大きなターニングポイントに立っていると考えています。また、武田薬品工業(タケダ)の日本事業のトップとしては、革新的な医薬品を生み出し、それをいち早く日本の患者さんにお届けするというのが使命であり、その責任から目を逸らすことはできないと考えています。
そうした制約の多い環境の中で、日本事業を預かるトップとして、日々の判断で最も難しさを感じるのはどのような点ですか。
さまざまな制約が重なる中で、何を判断の拠り所に意思決定を行うのかというのは常に難しさを感じます。短期的には合理的に見える判断が、長期的には信頼や社会的評価を損なう可能性もある。そのバランスをどう取るかは、トップとして常に悩むところです。
現実の経営判断では、コスト、規制、安定供給、組織の事情など、さまざまな要素を同時に考えなければなりません。その中で、判断を先送りせず、スピード感を持って決めていく必要があります。
武田薬品ではクリストフ・ウェバーCEOの下でグローバル成長を加速させると同時に、2024年度には収益力改善を目指す全社プログラムを導入しました。こうした変革を遂行するリーダーとして宮柱さんが大切にしている価値観や判断軸を教えてください。



