なぜ一流の交渉者は、成果も信頼も獲得できるのか
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サマリー:交渉は取引やキャリアを左右する重要なスキルだが、長年、価値の獲得と関係構築はトレードオフの関係にあると誤解されてきた。しかし、筆者らの研究によって、優れた交渉者は双方を両立させていることがわかった。本稿では、数千件のデータ分析に基づき交渉者を4つのタイプに分類し、卓越した交渉者が共通して持つ、成果と信頼を最大化するための「4つのメタ能力」について解説する。

交渉はトレードオフから逃れられないのか

 交渉は、最も重要でありながら、誤解されているリーダーシップスキルの一つだ。交渉は、取引、パートナーシップ、そしてキャリアを形づくるものだが、経験豊かなプロフェッショナルでさえ、「優れたネゴシエーター」を真に定義するものは何かについて、依然として議論を続けている。

 長年、交渉にはお決まりのトレードオフが存在すると広く考えられてきた。価値を獲得するか、関係性を構築するかのどちらか一方しか選べず、両立は不可能であるという考え方だ。強く主張しすぎれば信頼を損ない、調和を優先すれば実質的な利益を失う。たとえば、『ハーバード流交渉術 必ず「望む結果」を引き出せる!』などが提唱する古典的なフレームワークは、この緊張関係を裏づけており、立場を強情に維持する「ハードな」交渉と、関係性の維持を目的とする「ソフトな」交渉とを対比させてきた。

 それに対して、筆者らの研究は、この選択が誤りであることを示している。

トレードオフに異議を唱えるデータ

 交渉のパフォーマンスを高める要素を理解するため、筆者らは、2007年以来、50カ国以上のリーダーや学生が参加している世界的なコンペティション「ネゴシエーション・チャレンジ」で行われた数千件の交渉を分析した。

 記録された交渉約1000件を含むこのユニークなデータセットは、目標、戦略、実質的な結果、関係性の質がどのように相互に作用するかについて、稀有な洞察を提供した。

 その結果は、従来の考えに異議を唱えるものだ。ネゴシエーターは、ハードかソフトかという単一の基準で測られるのではない。彼らは、実質的パフォーマンス(創造し、獲得する価値の大きさ)と、関係的パフォーマンス(構築する信頼)という2つの基準で評価されるのだ。そして、次の4つのタイプに分類される。

1. 効果的かつ信頼される「統合型アチーバー」

 強固な結果を残しつつ、関係性を強化する。断固たる態度と共感のバランスにより、信頼を損なうことなく力強く主張することができる。このバランスを体現したのが、ネルソン・マンデラだ。彼は、共感、規律、道徳的な明確さを通じて、南アフリカのアパルトヘイトから民主主義への移行について交渉し、かつての敵対者を協力者へと変えた。

2. 効果的だが代償が大きい「競争的マキシマイザー」

 大きな勝利を得るが、しばしば関係性を犠牲にする。勝利にこだわりすぎて長期的なパートナーシップを損ない、将来の協働を制限してしまう。マーガレット・サッチャーがこのタイプだ。彼女の妥協なき推進力は、重要な経済改革と政治的勝利をもたらしたが、その対立的なアプローチはしばしば同盟者を遠ざけ、長期的な協働を制約した。

3. 好かれるがパフォーマンスが低い「協調的ハーモナイザー」

 容易に信頼関係を築くが、譲歩しすぎる。調和を求めるあまり、経済的な結果は低迷し、戦略的な方向性を見失う。ネビル・チェンバレンがこのタイプだ。ヒトラーとの戦前交渉において、彼の善意に基づく調和の追求は、一時的な友好関係は築いたが、戦略的優位性と長期的な安全保障を犠牲にした。