CEOから会長への移行を成功に導く5つのステップ
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サマリー:S&P500企業では、退任CEOの4割超が1年以内に会長に就く。この移行は戦略の継続性を高める反面、役割の混乱や権力闘争により組織を機能不全に陥らせるリスクもはらむ。本稿では、退任するCEOが陥りがちな過ちを指摘したうえで、権限の明確化や計画策定など移行を成功に導くための5つのステップと、シニアアドバイザーという代替案について論じる。

CEOから会長に就いた人が行いがちな過ち

 米国の代表的な株価指数「S&P500」を構成する大企業のCEOを退任した人物の40%以上は、退任後1年以内にその会社の取締役会会長の職に就いている──人材コンサルティング会社スペンサー・スチュアートによる2023年の研究はこう指摘している。

 CEOが退任した後に取締役会会長の役職に移行する場合、うまくいけば、戦略の一貫性が確保され、投資家からの信頼が高まり、変革期において組織を安定させることができる。また、継続性を確保し、知識や経験の蓄積を失うことを避けられる。それに、それまでCEOを務めてきた人物が自社と業界について育んできた深い知見も有効に活用できる。

 加えて、退任するCEOにとっては、会長への移行により、長期のビジョンとガバナンス、メンターシップを重んじて行動することが可能になる。それを通じて、その会社の文化と価値観を維持しつつ、会社の未来の構築が後押しされることも期待できる。

 しかし、CEOから会長に移行することは、企業のリーダーにとってとりわけデリケートなキャリア転換の一つだ。慎重に計画を立てて行わなければ、その会社の権力構造が曖昧になり、取締役会の内部に緊張が生まれ、社内で権力闘争が持ち上がり、社員が混乱に陥り、会社の評判に傷がつく。

 筆者らは、投資会社プリツカー・プライベート・キャピタル(PPC)での投資家および企業オーナーとしての活動を通じて、これまでに優に50回以上、この種のキャリア転換を支援してきた。また、そうしたリーダーたちの経験について、官民の多くの組織のCEOや取締役会のメンバーたちにも話してきた。

 筆者らの経験によると、CEOが会長に移行するに当たり、以下のような落とし穴に陥るケースが多い。

役割の混乱

 CEOと会長の役割の間に明確な境界線が引かれておらず、社内の人々がおのずと、すでによく知っている新会長(旧CEO)の指示を仰ごうとする。その結果として、新しいCEOの地位が揺らいでしまう。

 医療機器大手バクスター・インターナショナルのCEOと会長を務めたハリー・クレーマーはこう述べている。「オペレーションに関して会長が下すべき唯一の決定は、『我が社には適切なCEOがいるか』というものです。会長の役割は取締役会を主導し、ガバナンスを徹底すること。それに対し、CEOの役割は戦略とオペレーションを前に進めることです」

不十分な継承計画

 よく準備せずに、慌ただしく引き継ぎが行われると、機能不全に陥る。医療サプライチェーン関連サービス企業GHXのCEOを務めたのち、現在は同社の会長を務めているブルース・ジョンソンは、端的に次のように述べている。「重要なのは、継承計画を慎重に組み立てて、その計画を周知することです。私は、すべてのステークホルダーが計画を理解するように徹底し、そのうえで計画を注意深く実行しました」

足並みの乱れと信頼の低下

 CEOが会長に転じた後も、水面下でオペレーション関連の役割を担い続けると、その会社は2つの方向に引き裂かれてしまう。複数のシグナルが混在することにより、社内の足並みが乱れるのだ。取締役たちはしばしば、誰に忠誠を誓うべきか判断に迷い、社員は誰についていけばよいか確信が持てなくなる。コミュニケーションが一貫性を欠いていたり、不明確だったりすると、疑念と逡巡に拍車が掛かり、たちまち信頼が蝕まれる。

退任するCEOの心理的なダメージ

 何十年にもわたってリーダーを務めてきた人物がオペレーション上の権限を手放せば、アイデンティティが揺らぐ。この点は、継承のプロセスでとりわけ見落とされがちな問題の一つだ。

移行を成功させる方策

 本稿で論じているような継承のプロセスは、一瞬で完結するものではない。段階を追ったプロセスを慎重に計画する必要があり、そのプロセスは取締役会が監督しなくてはならない。そして、取締役会による監督は、取締役会の指名委員長やガバナンス委員長、もしくは筆頭独立社外取締役が主導すべきだ。

 取締役会は、以下の役割を担うのにふさわしい権限と中立性とガバナンス上の使命を持っている。その役割とは、会長とCEOの権限の境界線を定めてその線引きを徹底すること、両者の役割を明確にして権限が曖昧にならないようにすること、継承が全社に及ぼす文化的なインパクトをモニタリングすること、CEOを退いて会長に転じた人物のこれまでの貢献に敬意を表しつつ、新しいCEOが追求しようとする目標を支援するというバランスを取ることである。

ステップ1:移行のあり方を定めた基本文書をつくる

 まず、移行のあり方を定めた基本文書をつくる。この文書は、新しいCEOとCEOを退いて会長に転じる人物が共同で作成する。そして、取締役会の正式な承認を得る。そこには、以下の要素を盛り込むべきだ。

パーパスステートメント

 なぜリーダーの移行を行うのか、それによりどのような恩恵が期待できるのかを説明する。

明確な役割分担

 会長の役割(戦略の監督、取締役会のリーダー役、CEOの成績評価、継承計画の立案、対外的な取締役会の代表者役)と、CEOの役割(戦略、実行、リーダーシップ、オペレーション、ステークホルダーの意思統一)を具体的に示す。

 あわせて、会長がすべきでないことも明示する必要がある(たとえば、日々のオペレーション、採用、CEOの同意なしの直接のコミュニケーション)。これまでに筆者らが目の当たりにした文書の中には、退任したCEOが本社にオフィスを持つことを禁じるものすらあった。社内にオフィスがあると、つい誘惑に負けて日々の業務に首を突っ込んで、新しいCEOの邪魔をしかねないからだ。

コミュニケーションの規則

 会長とCEOがどれくらいの頻度で面会するのか、誰が取締役会に対する報告に責任を持つのか、2人の個々の発言と共同で発するメッセージをどのように区別するのかといったことも明確にしておくべきだ。リーダーの交代をいっそう揺るぎないものにするために、取締役会の冒頭では会長ではなくCEOが口火を切り、CEOとしての視点に基づいて方針を語るのが望ましい。

対立解決のためのステップ

 意見の不一致が起きた場合に対立を解消するための手立てを決めておくべきだ。たとえば、中立の独立社外取締役や筆頭独立社外取締役に仲裁役を委ねると決めておけばよい。

 筆者らの経験からいうと、以下のようなテーマをめぐって対立が生まれるケースが多い。

戦略の方向性:新しい会長が企業買収の推進を主張し、CEOが既存事業での成長を優先させたいと考えているといったケースだ。

対外的コミュニケーション:会長が投資家やメディアに対して発するメッセージと、CEOが発するメッセージが食い違う場合もある。

取締役会で取り上げる議題と取締役会に提供する情報:どのテーマを取締役会の議題として取り上げ、どれくらい詳しい情報を取締役会に伝えるべきかをめぐり、対立が持ち上がることも多い。たとえば、CEOはオペレーションに関して大きな裁量を求めているのに対し、会長はもっと緊密にオペレーションを監督したいと考えている場合がある。

変化のペース:CEOが急速に変革を推し進めたいと考えているのに対し、会長は(たいてい過去の戦略に関する経験に基づき)もっと慎重に進めるべきだと主張するかもしれない。

人事および継承に関わる決定:幹部人事やリストラをめぐり、対立が生じるケースもある。具体的には、本来であればCEOが担うべき意思決定に、会長が影響力を及ぼそうとする可能性があるのだ。

リソースの分配:たとえば、資金の割り振りをめぐって緊張が生まれることがある。成長のために投資すべきか、投資家に利益を還元すべきか、キャッシュを手元に置いておくべきかといったことが対立の原因になりうる。

ステップ2:意思決定の主体について区分けを行う

 これにより、誰がどの意思決定を行うのかが明確になり、CEOと会長のどちらも意思決定の役割を担おうとしなかったり、逆に両者が意思決定の権限を行使しようとしたりする事態を避けることができる。具体的には、以下で示すような区分けが有効かもしれない。

CEOの役割(執行)

・戦略の立案と執行(ただし、取締役会の同意が必要)。
・KPI(重要業績評価指標)を設定し、成果を追求する。
・取締役会の承認を得た予算の枠内で資金を割り振る。
・顧客、従業員、監督官庁、取引先との関係を築く。

会長の役割(ガバナンス)

・CEOが設定した戦略を承認する。
・取締役を採用し、オンボーディングを行い、評価を下す。
・取締役会や委員会の会議が有効なものになるようにする。
・報酬委員会を通じて、CEOの報酬を監督する。
・ガバナンスに関して株主とのコミュニケーションを主導する。
・取締役会に関わる危機が持ち上がった場合に主たる責任を担う(CEOの不適切行為が露見したり、株主からの圧力が高まったりした場合など)。

共同で担う領域

・リスクを監督する(CEOがリスクのマネジメントを行い、会長がリスクの透明性を確保する)。
・対外的な評判をマネジメントする(CEOが会社の顔の役割を担い、会長がガバナンスの顔の役割を担う)。

ステップ3:正式な移行計画をつくる

 スケジュールを具体的に定めた移行計画を正式に作成する。それにより、一連のプロセスに明確性と安定性をもたらすことが狙いだ。中間レビューを実施し、目標に向けた進捗状況を明らかにし、CEOと会長の役割の境界線を再確認し、もし必要であれば軌道修正する機会も設けよう。

推奨するスケジュール

・1~3カ月:正式な引き継ぎを行う、2人が一緒に表舞台に立つ。

 重要な場に2人で一緒に登場する。退任するCEO(つまり新しい会長)が新しいCEOを明確に支持してみせる。象徴的な権限(書類への署名やメディアへの対応など)を引き継ぐ。

・3~6カ月:退任するCEOが一歩下がる。

 退任するCEO(新しい会長)が表舞台に立つ機会を減らす。あらゆるコミュニケーションを新任のCEOに主導させる。こうすることで、リーダーはあくまでも一人だというメッセージを強化するのだ。

・6~12カ月:新任のCEOが舵取り役を担う。

 新しいCEOがその会社の指導部の唯一の顔であることを強く打ち出す。会長は、ガバナンスおよび継承を監督する役割に移行する。取締役会にレビューを行わせ、うまくいっていない点を表面化させ、問題を解決させる。

・12カ月以降:新体制を定着させる。

 新しいCEOにオペレーションと組織文化に関する権限を全面的に与える。一方、退任するCEO(新しい会長)が自己抑制のお手本を示すようにする。また、会長の意見を求める機会は、制度として決まっている取締役会でのやり取りに限定する。

ステップ4:取締役会の足並みを揃える

 取締役会が基本文書とスケジュールに全面的に従うようにする。それを徹底する役割は、筆頭独立社外取締役が担えばよいだろう。具体的には、取締役会は以下の行動を取るべきだ。

・一致結束して、CEOを支持するメッセージを発する。
・取締役会のさまざまな委員会を通じて、基本的な枠組みを強化する。
・定期的な状況確認を行い、CEOと会長の役割の境界線を維持する。
・目に見える形で、新任のCEOを公の場で後押しし、内輪の場でも支援する。
・緊張が過熱した場合に素早く対処するための緊急対応プランを用意する。

ステップ5:新任のCEOを公私両面で支える

 新しい会長は、公のイベントなどで新CEOへの支持を表明する一方で、二人だけの場では率直な助言を送る。言ってみれば、キャプテンとして新CEOに接するのではなく、いわば羅針盤の役割を果たすのである。新CEOから主導権を奪うことなしに、導くのだ。戦略について公の場で尋ねられた時は、CEOに尋ねるよう促そう。「それは、[CEOの名前]の担当です。[CEOの名前]が変革を主導しています」などと言えばよい。

もう一つの道──シニアアドバイザーへの移行

 どれほど注意深く計画を立てても、CEOが会長に移行するプロセスには失敗のリスクがついて回る。筆者らは、多くの企業でそのプロセスが失敗するのを目撃してきた。そこで、これとは別の選択肢も提案している。CEOを退任する人物を会長ではなく、シニアアドバイザーに任命するのだ。このアプローチを実践すれば、2人のリーダーが並び立つことにより曖昧な状況が生まれることを防ぎ、新任のCEOに力を与えつつ、前任のCEOが会社に対して有意義な貢献をする道を開ける。

 退任するCEOを取締役会に加えないことにより、多くの場合、その人物が正式な肩書きを手放しやすくなる。製薬大手ノバルティスのCEOを務めたジョー・ジメネスはこう助言している。「退任するCEOが会社に関わり続けたいという場合は、マネジメント以外の有意義な仕事を用意しましょう。日々の事業活動のリーダーという役割を降りた後、その人物が人生の次の一章や新しい機会を見出す手助けをするにはどうすればよいかを考えるのです」

 CEOを退いた人物がシニアアドバイザーの地位に就けば、それまでの経験をもとに、高い価値があるものの、オペレーションとは関係のない役割を担うことが可能になる。具体的には、リーダーのメンター役を務めたり、新事業開発を後押ししたり、新規顧客開拓のきっかけをつくったり、社会貢献や社会正義に関わる活動を推進したり、監督官庁への働き掛けに携わったりといったことだ。

 重要なのは、CEOを退任する人物に与える役割をあくまでもアドバイザー役にすることだ。オペレーションに携わらせてはならない。また、アドバイザーの役割を務める期間に制限(12~24カ月)を設けることも必須だ。それにより、その人物の過去の貢献に敬意を払いつつ、すっきりと地位を手放させることができる。

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 CEOが会長に移行するプロセスは、単なる形式的なセレモニーに留まらず、その会社のあり方が大きく変容する機会でもある。このことを前提に行動すべきだ。その点、前もって準備し、しっかりした仕組みをつくり、退任するCEOの立場に立って考えるようにすれば、会社に継続性を生み出すことと、会社のあり方を刷新することを両立させ、新しいリーダーに力を持たせることができる。


"When the CEO Becomes Board Chair," HBR.org, October 27, 2025.