優秀なリーダーほど組織を停滞させてしまう理由
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サマリー:多くのリーダーは、キャリアの初期に「正しい答えを出し、みずから成果を上げること」で評価されてきた。しかし、組織の規模が拡大し、環境が複雑化するなかで、その個人主義的な成功モデルは限界を迎える。いま求められているのは、「ヒーロー」としてみずから走り続けるリーダーではなく、「設計者」として他者が自律的に成果を生み出せる仕組みを構築するリーダーだ。本稿では、個人の力量に頼るリーダーシップから、組織の力を引き出す体系的なリーダーシップへと進化するための転換点を探る。

リーダーは意思決定の権限を手放せているか

 キャリアの早い段階で優れた成果を上げたリーダーが、最終的には自分自身が組織を停滞させる原因となってしまうケースが多く見られる。かつて彼らの成功を後押しした個人的な特性──自力で問題を解決する能力、直感に基づいた迅速な意思決定、強い意志で結果を導く精神力──は、規模の拡大が求められる複雑な環境において逆効果になりやすいのだ。

 筆者が繰り返し目撃してきた最も根強い落とし穴の一つとして、リーダーが重要な戦略的判断の大半を自分で担い続け、責任を分散させようとしない傾向がある。やがて組織が個人のヒーロー的な働きだけでは回らない段階に至ると、分担して意思決定を行うための拡張可能なシステムが必要となる。しかし、自分の価値を意思決定に見出しているリーダーは、その権限を手放そうとせず、結果的に彼らの存在自体がビジョンの実現を阻むボトルネックとなってしまう。

 本稿では、激変する今日の環境において、従来型の意思決定アプローチが十分に機能しなくなっている理由──そして、リーダーに頼らなくても部下が自信を持って戦略的判断を下せる、レジリアンスの高い仕組みを構築する方法を提示する。

個人のヒーロー的な働きに報いるシステム

 私たちは学生時代から経営幹部層に至るまでずっと、正解を出し個人として成果を挙げることに価値がある、と教え込まれてきた。問題を解決する人が高く評価される一方で、問題の発生を防ぐ仕組みを構築する人は評価されない。こうして、時間が経つにつれて、リーダーの内面に「自分の価値は他者に対して何かを可能にするかではなく、自分一人で何を達成したかで測られる」という危険な思い込みが固まっていく。

 だが、過去の成功パターンが通用しない、混沌とした予測不能の環境では、そうしたアイデンティティは揺らぎやすくなる。リーダーが昇進の過程で磨いてきたパターン認識力や決断力、個人的な責任感といった強みは、複雑性が高まるほど、むしろ足かせとなりかねない。必要なのは、「ヒーロー」から「設計者」への移行──意図を明確にし、原則を体系化し、自分がいなくても周囲の人が代行できるような意思決定システムを構築することだ。

 筆者が助言した2人の対照的なリーダーを例に取ろう。自分の会社をゼロから立ち上げたデイビットは、カリスマ性があり、疲れを知らない創業者だ。彼はあらゆる重要な意思決定を主導し、あらゆる重要な問題をみずから解決し、どのようなピンチが訪れてもみずからチームを鼓舞してきた。

 努力と直感と意志の力を信じる彼のやり方は、創業当初はうまくいっていたが、規模の拡大に耐えらなかった。会社が成長するにつれて、デイビッドのアプローチがマイナスに働くようになったのである。組織の成長が滞り人材が去っていく中、退職前の面談である傾向が明らかになった。辞めた人々は仕事がいやで離れたのではなく、自分の仕事への自律性と裁量がない環境がいやで去っていったのだ。

 それでもデイビッドは、これまでのやり方をさらに追求すればうまくいくと信じて突き進んだ。しかし彼は、数少ない最重要項目に集中することなく、すべてを自分でやろうとする、というよくある罠に陥っていた。本来なら新たな仕組みを構築するほうが効果的な場面でも、強いプレッシャーがかかると、すべてを自分が取り仕切る方式に戻ってしまう。「問題を解決できるからこそ、自分には価値がある」という信念が、彼のアイデンティティに染みついていたのである。

 一方のサラは、障がいのある人々を支援する、ミッション志向の組織を率いている。彼女がこの役職に就いた当時、組織は戦略的な岐路に立っていた。公的資金は予測不能でフィランソロピーも横ばいが続いており、ミッションの緊急性は高かったが事業モデルは脆弱だった。