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不確実性の高さを理由に、自己防衛に注力しすぎていないか
企業にとって、試練の時代が続いている。市場は不確実性に満ち、なかでも経済政策や通商政策に関しては、その傾向が際立っている。世界経済フォーラム(WEF)による2025年版「チーフエコノミスト・アウトルック」は、「不確実性がグローバル経済の状況を特徴づける主要な要素となった」と結論づけており、不確実性が「非常に高い」と評価したチーフエコノミストは82%に達した。世界各地のデータを追跡している経済政策不確実性指数の2025年の数値も、過去30年で最高水準に跳ね上がった。
これほど高水準の不確実性に直面した企業は、自己防衛モードに入り、コスト削減や現金の温存といった戦略に注力しがちだ。だが、そうした内向きの対応は、顧客、従業員、取引先、株主、地域社会といったステークホルダーからのサポートが最も必要なタイミングで、彼らを遠ざけてしまうおそれがある。困難な時期に信用を失うことなく、信頼を築きたいのであれば、リーダーは自社を取り巻く不確実性だけでなく、ステークホルダーが直面する不確実性についても理解を深め、対策を取る必要がある。
この点に関して、消費者と従業員が現在抱いている不安の指標として、エデルマン・トラスト・インスティテュートのデータを見てみよう。
・消費者の76%は、関税や貿易戦争による日用品の値上がりを懸念している。
・消費者の70%は、インフレの影響で生活に必要な物資を買えなくなると心配している。
・従業員の75%は、賃上げがインフレ率に追いつかず、自身の経済状況が悪化することを懸念している。
・従業員の58%は、自動化やその他の技術革新によって自分の仕事が奪われるかもしれないと心配している。
貿易や関税をめぐって世界規模で不確実性が高まり、その対応として企業がサプライチェーンの見直しを進める中、サプライヤーも不安定な状況に置かれている。2025年には、米国のCEOの71%、欧州のCEOの77%が、今後3~5年の間にサプライチェーンを変更する計画があると回答した。いずれも、2024年(米国54%、欧州61%)より高い数値だ。
不確実性に起因する不安に押されて、ステークホルダーは企業との関係を見直そうとしている。不確実な時代を乗り切る助けとなる関係を強化・拡大する一方、リスクが高すぎると見なした関係や、限られたリソースを消耗する関係、「あれば望ましい」程度の関係は整理しているのである。
言い換えれば、ステークホルダーは彼らの困難に関心を寄せてくれない企業や、自社の問題にばかり気を取られているように見える組織よりも、信頼を生み出す行動を取ってくれる企業との関係を優先している。
だとすれば、ビジネスリーダーはマインドセットを転換する必要がある。自社の生き残りをかけて内向きの対応をしたくなるのは自然な反応だが、その衝動に従うことなく、不確実性がステークホルダーそれぞれの生活にどう影響しているかを理解する努力が求められる。それができれば、集めた情報を活用して、彼らの不安を和らげる「確実性のバブル」をつくり上げることが可能になる。
こうした取り組みの見返りは、売上げや顧客ロイヤルティ、従業員エンゲージメント、サプライヤーの対応力、株主リターンといった形で企業に戻ってくる。本稿では、「確実性のバブル」を生み出すために役立つ3つの戦略を紹介する。
予測可能性の源泉となる
不確実性の高い時期には、将来を予測する能力が根底から揺るがされ、想定される因果関係(Xをすれば、次にYが起きる)や、人々が日常生活で当てにしてきた信頼性が断ち切られてしまう。
その典型例が銀行システムである。貯蓄、借り入れ、投資、融資の根底には「銀行にお金を預けておけば、好きな時に引き出せる」という前提があり、それが個人や組織に流動性をもたらしている。この予測可能性の前提が成り立たなくなるおそれを顧客が感じると、取りつけ騒ぎが発生する。2023年3月にシリコンバレー銀行、シルバーゲート銀行、シグネチャー銀行が破綻した際には、まさにそうした事態が起きた。
一方、不確実な状況において信頼構築を重視するアプローチを取れば、まったく異なる結果を生み出せる。そのよい例が、カザフスタンの銀行「カスピ」だ。2014年、同国通貨の大幅な切り下げを受けて、カスピを含む3行が破綻するという噂がワッツアップに流れた。すると、3行すべてで、支店の外に預金の引き出しを求める人々の長蛇の列ができた。
この時、カスピは他の2行とは異なる対応を取った。引き出し限度額を撤廃し、引き出し手数料も免除。経営幹部たちは混乱の渦中にある支店へ出向いて、行員をサポートした。また、パニック状態にある顧客の思いを真正面から受け止め、最後の一人まで救えるよう、支店を72時間休みなく営業することを許可した。さらに、他の支店から現金を空輸し、列に並ぶ顧客と直接言葉を交わして、彼らの言葉に耳を傾けた。
カスピのCEOミハイル・ロンタゼは、破綻の噂を否定し、自行の対応を広く伝えるために、メディアの取材にも快く応じた。彼は次のように語っている。「『心配するな』と言うつもりはなかった。あの状況では、そうしたメッセージは通用しないからだ。私が伝えたのは事実だ。『その情報は正しくない。我々は24時間営業を含め、できる限りの支援を行う』と」。
予測可能性を回復させようとしたカスピの対応は、顧客との信頼強化につながった。取りつけ騒ぎが始まった時点で、顧客は預金の10%を引き出していた。しかし、3日後に事態が収束した際も、引き出し額は預金の10%に留まっていた。それだけではない。新規顧客が同行に殺到し、カスピの預金残高は国内で最も速いスピードで増加した。
それから数年間のうちに、カスピは顧客との間に築いた信頼を基盤として、フィンテック、マーケットプレース、決済プラットフォームへと事業を拡大していった。2019年時点で、カザフスタンの人口1900万人の半数が同行のサービスを利用するまでになった。2021年には上場を果たし、その年のロンドン証券取引所で行われたIPOのうち、2番目の規模だった。
確実性の源泉となる
システム上の不確実性(世界的な関税変動、不況、パンデミックといった外部要因によって生じる不確実性)には、「既知の未知」(known unknowns)と「知りようのない未知」(unknowables)が増殖するという特徴がある。「既知の未知」とは、リスクの存在自体は特定できるが、それがもたらす結果や継続期間がわからないリスクを指す。一方、「知りようのない未知」は、さまざまな要因が複雑に絡み合い、特定することすらできないリスクを指す。
システム上の不確実性はあらゆる人々に影響するが、企業は以下の点で、ステークホルダーに対して決定的な優位性を保っている。
・情報源や政府の主要な意思決定者にアクセスしやすい。
・新たに浮上するリスクを監視し、理解するためのリソースをより多く持っている。
・みずからが検討している行動について知識を有している。
「既知の未知」と「知りようのない未知」が無数に渦巻く状況において、企業は顧客やサプライヤー、従業員のために「確実なもの」を見出し、創出することで信頼を高めることができる。たとえその確実性が期間限定だとしても、頼れる情報を提供したり、当てにできる約束を提示したりすることは可能だ。
ハネウェルのCEOデーブ・コートが2008年の世界金融危機の際に取った行動を例に取ろう。過去に2度、景気後退を経験していた彼は、事態の深刻さを認識していた一方で、危機がいずれ収束することもわかっていた──「既知の未知」である。
顧客との約束を守るため、コートは各部門のリーダーに対して、サプライヤーと連絡を取り、状況が好転し始めた時点で発注する予定の規模を伝えるよう指示した。不確実性に満ちた状況下で一定の確実性を提供した見返りは大きかった。サプライヤーはハネウェルを優先的に扱うようになり、ハネウェルは対応が遅れた競合他社に先んじて動くことができた。
次の例は、ノースカロライナ州アウター・バンクスで別荘の賃貸、販売を行うツイディ&カンパニーのケースだ。社長のクラーク・ツイディにとって、新型コロナのパンデミックはまさに「知りようのない未知」だった。
州当局が同社の物件と本土を結ぶ橋を封鎖したため、客が別荘を訪れるのは不可能となった。ツイディは、別荘の所有者や宿泊客から押し寄せる、まっとうだが答えにくい質問──返金の方針、清掃によって安全に滞在できる状態を保てるのか、橋の封鎖はいつまで続くのか──への対応に追われていた。同時に従業員からも、感染リスクから守られるのか、自分たちの仕事が消えるのではないかといった不安の声が上がっていた。
ツイディは、ステークホルダーに確実性を提供することに全力を尽くすと決めた。別荘所有者に向けては、ノースカロライナ州の不動産委員会に働きかけて、コロナ禍での不動産管理企業の法的義務をまとめた声明を作成してもらった。これによって、休暇用の予約金を返金する枠組みが確立され、別荘所有者も宿泊客も状況を明確に理解できるようになった。
さらにツイディは、毎週のようにオンラインのタウンホールミーティングを開催し、自社が把握していること、把握していないこと、自社の対応、翌週に起こりそうなことを共有した。また、清掃業者を招いて、物件の安全確保について説明させたり、地元の保健当局や政府関係者を呼んで、パンデミックがアウター・バンクス地域に及ぼす政治的、公衆衛生上の影響について話してもらったりした。
ツイディは、宿泊客や従業員に対しても同じアプローチを取った。施設を借りられるようになった場合に安全な形でサービスを提供する方法についての宿泊客からの質問には、現場スタッフが対応した。雇用の安定性に関する従業員の懸念に対しては、キャンセル率の情報や、給与削減や解雇が必要になるまでに会社が何週間分の資金を確保しているのかという見通しを共有した。また、長期的な事業継続についての経営陣の考えも説明した。
ツイディは確実性を求めるステークホルダーのニーズに向き合い続けた──たとえ、限られた期間の保証だとしても。おかげで、同社はレンタル物件のポートフォリオを維持、拡大し、1物件当たり年間20週分の予約という目標を達成できた。さらに、物件の賃料を引き上げることで、収益拡大も実現できた。
パンデミック期間中のホテル業界のスタッフ定着率は平均20%を下回っていたが、それとは対照的に、ツイディでは95%に達した。
安定性の源泉となる
予測可能性と確実性を提供できれば、感謝と信頼を醸成できる。戦略としては、比較的低コストである。方針や慣行を見直し、従来と異なる運用に切り替えることで、不確実性に満ちた状況で確実なものを生み出そうという試みだからだ。
一方、信頼を高める3つ目の戦略として、「安定性の源泉となる」というアプローチもある。
企業はステークホルダーと比べて、多大なリソースと資金調達手段、優先順位を短期的に先送りしたり、変更したりできる能力の点で秀でている。この点を踏まえ、不確実性に伴う財務コストをすべてステークホルダーに転嫁する代わりに、その一部を自社の側で引き受け、吸収すれば、ステークホルダーに安定性を提供できる。
価格設定の難しさが際立つ世界的な関税環境の変化を見れば、この戦略の仕組みを理解しやすい。関税の変化に伴うコストをステークホルダーに転嫁しすぎると、競合他社が同じ対応を取らなかった場合、顧客が離れ、競争上の優位を失うリスクがある。一方、コストの転嫁を抑えすぎれば、自社の利益率が下がり、短期的な利益が減少する。そうなれば、株価の下落や、戦略目標を追求する能力の低下、財務的損失を招くおそれがある。
2025年7月の『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙の分析によれば、アマゾン・ドットコムは価格を据え置くと公言していたにもかかわらず、「低価格の生活必需品」1200品目以上の価格を引き上げていた。対照的に、ウォルマートは同じ商品群の価格を約2%引き下げていた。
この報道に対し、アマゾンは調査対象となった商品は自社が扱う何百万点もの商品を代表するものではないと強く反発したが、世論は激怒した。関税に起因する値上げに敏感になっていた消費者にとって、価格据え置きを約束していた企業への怒りはとりわけ大きかった。
企業が安定性を提供する方法として、従業員にとっての「緩衝材」となるアプローチもある。従業員が直面する経済的不安定さの影響を完全に消し去るわけではなく、和らげる役割を担うのである。
たとえば、世界金融危機の際、ハネウェルは米国に拠点を置く多角化メーカーの中で唯一、解雇ではなく一時帰休によるコスト削減を行った。同社はそれ以前の2回の景気後退局面で解雇を実施していたが、CEOのコートは、解雇による混乱がもたらす損失は、多くの人が認識している以上に大きいと結論づけていた。
一時帰休の運用方法は、ハネウェルの5つの事業部門が直面している状況によって異なり、無給の一時帰休期間は1~5カ月間まで幅があった(行政支援を受けられる国では給与の一部補填を実施)。管理職、顧客対応を担当する従業員、優先度の高いプロジェクトに従事するエンジニアは対象から除外された。
無給期間が長期に及んだ部門では、「一部の人を解雇したほうがよかった」という不満の声も上がったが、最終的には、従業員の安定を重視した一時帰休戦略のおかげで、事業が再開した際に高付加価値人材が競合他社に流出してしまう「残念な離職」は少なかった。有能な人材をそのままの状態で維持するという同社の賭けは成功し、2009~12年のトータルリターンは、最大の競合であるGEを28ポイント上回った。
ここで明確にしておきたいのは、ステークホルダーに確実性を提供するといっても、それは不確実性の根底にあるより大きな社会課題に直接働きかける、という意味ではないという点だ。また、単に楽観的なことを言ったり、将来への希望を生み出そうとしたりすることでもない。重要なのは、完全に自社の管理や影響の及ぶ範囲内にあるリソースを用いて、即時的かつ具体的に不確実性を和らげられる方法を提供することだ。
柔軟性を保ちながら確実性を創出する
組織がステークホルダーの生活における不確実性を和らげようとする一方、組織自体も不確実性の影響を全面的に受け続けている。したがって企業は、不確実性を緩和させながら、同時に、変化する市場環境に効果的に対応するために必要な柔軟性を維持するという微妙なバランスを取らなければならない。
基本的な原則は、「過剰な約束はしないが、約束したことはできる限り実行する」という姿勢だ。目指すべきは、不確実性を完全に取り除くという不可能に近い目標ではなく、不確実性の影響をぼかしたり軽減したりすることなのである。
そのためには、不確実性の軽減に向けて可能なことはすべて行っていることを示す必要がある。組織として何ができて、何ができないのか、そして、それはなぜなのかについて透明性を保つことが重要だ。
不確実性の緩和戦略として考えられるのは、価格の据え置きや引き下げ、利息の免除、期間限定の一時帰休、解雇の一時停止、将来の発注に関する約束、職を失った人々への支援、専門家や意思決定者から得た信頼できる情報の共有、事業の現状に関する透明性の確保などである。
これらの戦略を実施する際には、状況の変化に応じて取り組みを調整できるよう、期限を設けることで柔軟性を維持できる。また、確実性を特に必要としている人々を優先的に支援することで、リスクを抑えることができる。具体的には、賃金の低い従業員の給与削減を避け、上層部の報酬を引き下げる、手元資金の少ない小規模な取引先に優先的に配慮する、などの方法が考えられる。
注意すべきなのは、企業の歴史は現在にまで影響を及ぼすということだ。一貫して誠実な態度を保ち、ステークホルダーのために行動してきた実績がなければ、これらの戦略がステークホルダーに強力な確実性をもたらす効果は目減りする。企業の過去に問題が多かった場合、たとえ最善を尽くしても、提供しようとしている確実性への信頼は損なわれてしまう。
ステークホルダー自身も不安定さを抱えている中で、企業に2度目のチャンスや信用回復の余地を与えようと思うケースは少ない。つまり、不確実性は確かに信頼構築のチャンスではあるが、それが当てはまるのは、過去に信頼の土台を築いてきた組織だけなのだ。
不確実性に満ちた期間に信頼構築を重視する姿勢は、その期間中によりよい成果を上げる助けとなるだけではない。不遇の時期をバネにして、回復局面の機会を最大限に活かすことにもつながる。
ハネウェルのコートは、解雇ではなく一時帰休を選択した際に次のように述べている。「景気後退期にリーダーを務める経験は3度目だが、不況期の選択が回復期の業績にどう影響するかについて経営陣が語っているのを聞いたことがない。だが、回復期は必ず訪れるから、その時に備えておく必要がある」
ツイディ&カンパニーも同様だ。2021年5月20日、アウター・バンクスへ通じる橋の通行が再開されると、わずか数日で、「予約の持ち越し」を認められていた人々がいっせいに訪れ、さらに新規客も多数押し寄せた。すべての物件の予約が10月まで満杯になり、2022年分の事前予約の要望も届いた。もしも同社の従業員定着率が業界全体の平均である20%に留まっていたら、この需要増に対応するのは無理な話だった。不確実性に満ちた時期にツイディが行った信頼構築への投資が、パンデミック期終了後の成功の条件を整えたのである。
"How Leaders Can Build Stakeholder Trust in Uncertain Times," HBR.org, November 14, 2025.






