リクルートはなぜ利益率で競合を圧倒できるのか
Photo: Diamond, Inc.
サマリー:人材業界において、いまや世界有数の総合人材サービス企業へと成長したリクルート。時価総額は12兆円を超え、同業大手のパーソルやパソナ、さらには業界で世界一の売上高を誇るランスタッドをもしのぐ市場からの評価... もっと見るを得ている。その強さを支えているのは、人材派遣にとどまらない独自の事業ポートフォリオだ。とりわけインディードやグラスドアを擁するHRテクノロジー事業の成長により、他社が真似できない収益構造を築き上げている。本稿では、競合他社との比較を交えつつリクルートを財務分析することで、同社がここまで突出した存在になりえた秘訣を探る。 閉じる

人材会社で時価総額ダントツ世界一

 日本における総合人材サービス会社の草分けといえば、株式会社リクルートホールディングス(以下、リクルート)です。リクルートの時価総額は12.7兆円(2025年11月12日時点)で、国内の時価総額トップ20圏内に位置しています。

 国内人材業界において売上高ナンバー2を誇るパーソルホールディングス株式会社(以下、パーソル)の時価総額は6700億円ほどですから、トップのリクルートとは20倍近くの差が開いていることになります。

 世界の総合人材サービス会社と比較しても、リクルートの売上高は世界3位に位置しています。いまやリクルートは国内だけでなく、世界でもトップクラスの総合人材サービス会社なのです。

 ここで驚きなのは、人材業界で世界一の売上高を誇るオランダのランスタッド・ホールディングスですら時価総額は約1兆円と、リクルートの12分の1程度しかないことです。

 同じ人材業界に属していながら、なぜリクルートだけがこれほどの時価総額を実現できているのでしょうか。そこで今回は、リクルートを財務の観点から考察しながら、世界一の人材会社であるリクルートの「強さ」の秘密を探っていきます。

他の人材会社よりも高い利益率

 リクルートの2025年3月期の売上高は3.55兆円であり、国内業界2位のパーソルの1.45兆円、同3位の株式会社パソナグループ(以下、パソナ)の3092億円を大きく上回っています。

 売上高もさることながら、ここで注目したいのは利益率です。リクルート、パーソル、パソナのPL(損益計算書)の構造を比較したのが図表1になります。

図表1
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注:リクルートの「広告販促費」は、「広告宣伝費」と「販売促進費」を合計したもの。
出所:2025年3月期リクルート有価証券報告書、2025年3月期パーソル有価証券報告書、および2025年5月期パソナの有価証券報告書より筆者作成。

 パーソルの営業利益率は4%、パソナは赤字で−0.4%であるのに対して、リクルートは14%と、パーソルの3倍以上です。同じ業界にありながらこれほどの差がつく理由は、図表1からもおわかりのように主に原価率にあります。パーソルとパソナの原価率は70%台後半ですが、リクルートのそれは41%しかありません。

 なぜリクルートは原価率をこれほど低く抑えられるのでしょうか。

 この点を理解するには、リクルートのセグメント別構成を把握する必要があります。

低い原価率を実現するビジネスモデル

「リクルートの事業は」と聞かれたら、あなたは何をイメージしますか。

 新卒で就職した人や転職を検討したことがある人なら、おそらく「リクナビ」をはじめとするリクルートのキャリア支援サービスをイメージするでしょう。他にも、「SUUMO」「ゼクシィ」「Hot Pepper」「じゃらん」などのマッチングサービスを想起する人もいるかもしれません。CM等で最近よく耳にする「インディード」を思い浮かべる人も多いでしょう。

 現在のリクルートの事業は、人材派遣事業、マッチング&ソリューション事業、そしてHRテクノロジー事業という3つから構成されています。それぞれの概要は図表2の通りです。