複雑な戦略課題の解決には、量子モデリングが不可欠になる
HBR Staff/AI
サマリー:利害や要因が複雑に絡み、従来の分析では解けない課題が急増している。量子モデリングは、量子力学に基づく発想で相互に依存する多数の要因を同時に扱う。この方法は、複雑な戦略的意思決定を支援する新たな枠組みとなる。本稿では、3つの典型的なビジネス課題を例に、従来型のコンピュータ技術を用いつつ、量子モデリングによって複雑な戦略課題に対処する方法を示す。

量子モデリングが意思決定を変える

 戦略における「ウィキッド・プロブレム」とは、単純明快な解決策が存在しない課題を指す。従来型の問題解決手法では対処できない複雑な問題を扱う際に用いられる用語だ。

 今日の戦略的課題の多くも、このウィキッド・プロブレムに当てはまる。ステークホルダー間の利害が衝突し、根本的な原因が複雑に絡み合い、介入するたびに結果が変化していく複雑な状況下においては、従来型の分析手法は通用しない。

 ただし、朗報もある。そうした問題が深刻化しているタイミングで、複雑性への対応に長けた新たな概念的枠組みが登場したのだ。それが量子モデリングである。

 HSBCとIBMが最近、債券取引に量子コンピュータを用いるとパフォーマンスが34%向上すると示唆する論文を発表した。この「画期的」なニュースは、人類が「新たなフロンティアの入り口に立っている」証拠だとして、世界中のメディアで大きく取り上げられた。

 一方、それ以上に大きな意味を持つにもかかわらず、さほど注目されなかった事実もある。それは、量子コンピュータ(実用化までにあと数年はかかるうえに、非常に高価である可能性が高い)がなくても、量子的アプローチのメリットを享受することは可能だという点である。実際、企業が従来型のコンピュータを用いつつ、量子力学の理論と数学に基づくモデリング概念を活用するケースがすでに登場している。

 量子モデリングが他と一線を画すのは、従来のモデリングでは扱いきれない規模の相互依存性に対応できる点だ。たとえば、従来型の戦略分析は回帰分析を用いて、従属変数または結果(Y)と、それらを引き起こす観測可能な独立変数(X1、X2など)の関係を見出そうとする。一般的に、これらの独立変数は互いに因果関係がなく、独立していると仮定されるが、現実世界ではそうではない場合も多い。

 そこで力を発揮するのが量子モデリングである。量子モデリングはさまざまな数学的手法を用いて、結果(Y)と原因(X群)の関係を評価するだけでなく、複数の原因から成るグループ──従属変数について最も効果的に説明できる、2つまたはそれ以上のX変数の組み合わせ──も扱うことができる。つまり、量子モデリングとは、複数の原因が絡み合った状況で生じる結果について最もうまく説明できる方法を探す試みであり、その強みは、膨大な数の原因の組み合わせをモデル化できる点にある。

 量子革命は、将来にわたって意思決定の形を大きく変える可能性がある。本稿では、3つの典型的なビジネス課題を例に取って、従来型のコンピュータ技術を用いつつ、量子モデリングによってウィキッドな戦略課題に対処する方法を示す。

問題1:物流を最適化する

 あるグローバルな貨物・サプライチェーン企業(ここでは「Kロジスティックス」と呼ぶ)は、ウィキッドな戦略課題に直面していた。エンド・トゥ・エンドの物流にかかる総コストの観点から代替の供給ルートを検討したいと考えていたが、燃料価格の高騰、排出規制の強化、不安定な地政学的環境の影響で、総コストの予測は困難を極めていた。オペレーションズ・リサーチに基づく整数線形計画法などの古典的な計画ツールは、複雑に絡み合う変数を扱うには不十分だった。

量子モデリングがどのように役立ったか

 最高技術責任者(CTO)のリアムは、総コストの問題を量子的な観点で捉え直すことにした。コストを、互いに依存する複数の変数が同時に評価された動的な結果の集まりと捉えたのである。「量子アニーリング」と呼ばれる手法を活用することで、彼は従来のオペレーションモデルが提示していた推奨ルートよりも低コストになるルートを発見した。