時間に対する志向性

 時間というものは、ふつう、過去・現在・未来の3つの時点に分けられる。中学校で英語の文法を叩き込まれた人には、「ほかにも現在完了と過去完了と未来完了があるじゃないか!」と思うかもしれないが、ふつうの人には意味がわからないので、気にしていない。

 ところで、過去はすでに実在しないものであり、逆に、未来とはいまだ実在しないものだから、ありありと実感できる時間は、今現在しかない。だから、古代の神学者アウグスティヌスは、過去とは現在の意識の中に甦ってくる記憶であり、未来とは現在から見た期待であると考え、時間を現在の意識との関係でとらえ直した。

 現代風にいえば、過去についての記憶も、未来に対する予測も、現在についての認識も、すべていま生きているわれわれの脳がつかさどっている。

 意識によって感じ取られた時間は、地球の自転・公転から割り出された物理的時間に対する意味で、主観的な時間という。この主観的な時間の観念を科学の俎上に上げたのが、スタンフォード大学フィリップ・ジンバルド名誉教授だ。

 時間軸上のある時点で起きる出来事は、認識と解釈を通じてわれわれに影響するので、実は、実際の出来事よりも、その出来事に対する個人の姿勢のほうが大切になる。そこでジンバルド教授は、過去・現在・未来の3時点を、ポジティブとネガティブのどちらでとらえているのかという切り口で、われわれの時間に対する志向性を測定してみせた。

 図を見てほしい。ジンバルド時間展望質問紙(ZTPII)がとらえようとする6つの時間志向性が、なんとなく理解できるだろう。