社会生態学者としてのドラッカーを感じさせる『すでに起こった未来』
サマリー:ドラッカーの著作を読んでみたいけれど、数多ある中からどれを読めばよいのか、迷っている人というも少なくないだろう。そんな方にまずおすすめなのが、ドラッカー著作の大多数を翻訳した上田惇生先生がすべての著作、目次やあらすじ、読みどころを紹介した『P. F. ドラッカー 完全ブックガイド』だ。本連載では、本書の内容を抜粋し、再編集したものを掲載する。今回は、社会生態学者としてのドラッカーの広さ、奥深さを感じさせる珠玉の論文集『すでに起こった未来』について紹介する。

『すでに起こった未来』
原題:The Ecological Vision(1993)

『すでに起こった未来——変化を読む眼』(上田惇生、佐々木実智男、林正、田代正美訳、ダイヤモンド社、1994)

【注】入手可。

『すでに起こった未来——変化を読む眼』(上田惇生、佐々木実智男、林正、田代正美訳、ダイヤモンド社、1994)

主な内容 

 40年を超える執筆活動から、ドラッカー自身が選んだ珠玉の論文集。日本画に対する造詣の深さをいかんなく発揮した「日本画に見る日本」、人間の本質に迫る「もう一人のキルケゴール」など、ドラッカーの広さ、奥深さを感じさせる一冊。

 ゲーテの『ファウスト』に登場する望楼守リュンケウスに擬し、自らを社会生態学者と定義したのも本書『すでに起こった未来——変化を読む眼』である。

目次

1部 アメリカの経験
 1章 アメリカの特性は政治にあり

2部 社会における経済学
 2章 アメリカ政治の経済的基盤
 3章 利益の幻想
 4章 シュンペーターとケインズ
 5章 ケインズ:魔法のシステムとしての経済学

3部 マネジメントの社会的機能
 6章 マネジメントの役割

4部 社会的機関としての企業
 7章 企業倫理とは何か

5部 仕事・道具・社会
 8章 技術と科学
 9章 古代の技術革命に学ぶ

6部 情報社会
 10章 情報とコミュニケーション

7部 社会および文明としての日本
 11章 日本画に見る日本

8部 社会を超えて
 12章 もう一人のキルケゴール

終章 ある社会生態学者の回想

登場する主な企業・組織

 ロッキード、GE、ゼロックス

登場する人物

 ジョゼフ・シュンペーター、ジョン・メイナード・ケインズ、ミルトン・フリードマン、ジークムント・フロイト、ロバート・マクナマラ、J. ピアジェ、エルトン・メイヨー、ジョゼフ・ジュラン、中根千枝、マーシャル・マクルーハン、エドウィン・ライシャワー

取り上げられているコンセプト、理論、手法

 科学的管理、マネタリズム、サプライサイド経済学、企業倫理

人、日本、社会生態学……ドラッカーの世界を知る

 すでに起こったことを観察すれば、それがもたらす未来が見えてくる。あらゆるものにリードタイムがある。ドラッカーはそれを「すでに起こった未来」と名づけました。

 本書『すでに起こった未来——変化を読む眼』で特に欠かせないものが、終章の「ある社会生態学者の回想」です。ここには、ドラッカーの世界観が思う存分に描かれています。

 ドラッカーは自らを社会生態学者と規定しています。そのことについて本人は、「自然生態学が生物の環境を研究するように、社会生態学は人間によってつくられた人間の環境に関心をもつ」と述べています。

 では、社会生態学とは何か。それは、「分析することではなく、見ることに基礎を置く。知覚することに基礎を置く」と説明します。社会学との違いはここにあります。社会を部分に分解して理解しようとはしません。社会生態学は、部分ではなく「総体としての形態」を扱います。部分の集合と総体は、根本的に異なるとします。

 しかも今日、部分から全体を知ろうとする、デカルトに始まった近代合理主義としてのモダンは、限界に達しています。

 社会生態学は、「すでに起こったことを見る」ところに特徴があります。「重要なことは、すでに起こった未来を確認することである。すでに起こり元に戻ることのない変化、しかも重大な影響をもつことになる変化でありながら、未だ認識されていないものを知覚し、かつ分析することである」といいます。

 重要なのは、「見る」ことです。全体を丸ごと「命あるものとして知覚する」ことです。日本画に象徴されるように、日本人にはその感覚が備わっているといいます。

 「日本の近代社会の成立と経済活動の発展の根底には、日本の伝統における知覚の能力がある。これによって日本は、外国である西洋の制度と形態を把握し、それらを再構成することができた。日本画から日本について言える最も重要なことは、日本は知覚的であるということである」

 本書『すでに起こった未来——変化を読む眼』でドラッカーはもう一つ重要な自己規定を行っています。

 「経済学者たちと私の見解が一致を見る点が一つだけある。それは、私が経済学者ではないということである。だからと言って、私が経済学を知らないということではない。もしそうだとしても、そのような欠陥を直すことは容易である」

 事実、本書5章にも収録した論文「ケインズ——魔法のシステムとしての経済学」は、経済学の論文集や大学の教科書にも収録されていました。

 ではなぜ、ドラッカーは自分は経済学者ではないというのでしょうか。経済はそれ自身が目的ではなく、非経済的な目的、つまり人間的な目的、社会的な目的のための手段であるにすぎないと確信しているからなのです。つまり、経済学を独立した科学としては認めないということです。

 しかしだからこそ、ドラッカーは人間のためのもの、社会のためのものとして経済に強い関心をもち、その書くものは常に広く読まれ、現実の各国の経済政策や企業経営に重大な影響を与えてきたのでした。

期間限定プレゼントのお知らせ

 書籍『P. F. ドラッカー 完全ブックガイド』の(ドラッカー全著作を紹介した)目次、ドラッカーの処女作『「経済人」の終わり』の紹介ページのPDFを期間限定(2026年6月30日17時まで)でプレゼント中です。

「DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー(DHBR)電子版」無料会員にご登録のうえ、対象論文をダウンロードください。

≪ご登録・特典ダウンロードはこちら≫

<ご注意>
・ご本人様限りでご利用いただき、無断転載・転用はお断り申し上げます。

『P. F. ドラッカー 完全ブックガイド』

[著]上田 惇生
[内容紹介]ドラッカー教授のすべての著作、目次やあらすじ、読みどころを紹介。「どの本に何が書いてあるか」が一目でわかる。「日本における分身」上田先生ならではのドラッカーとのやりとり、翻訳秘話も満載。巻頭カラーは、ほぼ日で話題の人気対談、糸井重里×上田惇生「はじめてのドラッカー」を収録。史上初のブックガイド!

 

<お買い求めはこちら>
[Amazon.co.jp][紀伊國屋書店][楽天ブックス]