このような産業構造の変化を受けて、能力の高いビジネスパーソンほど、先を競って海を渡る。日本企業よりずっと高い期待と責任と報酬を示されて、外国企業に活躍の場を移していく。期待と責任と報酬は、モチベーションの重大な要素なので、時として、フツーのサラリーマンが大事にする安定と安心を凌駕するものだ。
同じように、産業構造の変化を受けて、大学生が自分の生涯を懸けて行うやりがいのある仕事も、国内からどんどん姿を消している。けれども、戦後60余年をかけて発展し、日本が便利で住みやすい国となったおかげで、若者の海外離れが指摘されて久しい。
同世代の約半数が大学生となった「大学の大衆化」の時代にあっても、レストランや商店などの仕事や、介護や福祉の仕事などはなくなることはないので、雇用を吸収し続けるだろう。しかし、専門性を必要としない定型的でルーチンなサービス職は、高学歴者の雇用を担う仕事になるとは思われない。ニートやフリーターが増えたおかげで、バイトを見つけられない大学生が多くなっていることもその証しだし、わが国の科学技術をもってすれば、ロボットと機械に取って代わられることは明らかだ。
わが国が先進国の仲間入りを果たし、安定成長期を迎えた1982年、イー・オリョン教授は、著書『「縮み」志向の日本人』(学生社)の中で、日本の強みと特色をとらえて「縮み志向」と呼んだ。いま、若者のキャリアは、縮み志向に向かっている。
キャリア教育という異変
いま、キャリアの問題について、学校側も対策に追われている。キャリアの問題に異変が起こっているとすれば、小学校から大学まで、教育機関がキャリア教育にたいへん力を入れていることだ。
その普及率は著しい。(社)国立大学協会の2005年の報告書によれば、就職支援も含めた広い意味でのキャリア教育を実施している大学は、80%に上っている。また、インターンシップ(職場体験)に限ってみても、その広がりは大学で62.5%、公立高校普通科で50.2%、公立高校職業科で82.6%、公立中学で91.9%である(内閣府キャリア教育等推進会議資料、2005年)。