学校教育法第52条には「大学は、学術の中心として、広く知識を授けるとともに、深く専門の学芸を教授研究し、知的、道徳的および応用力を展開させることを目的とする」と明記されている。かつては、学問の府に学芸を重視し、実業(職業・ビジネス)を軽視する風潮があった。

 それが一転して、いまでは、①職業観・勤労観の育成、②職業に必要な知識・能力・ビジネスマナーの習得、③自己理解をベースにした進路指導などを目的として、キャリアにかかわる教育が実施されている。最近では、大学と専門学校の提携も進んでいる。

 キャリア教育は出口戦略である。出口が厳しいと、そのしわ寄せは「前倒し」という現象を呼ぶ。学生の卒業後を引き受ける企業の側では、採用活動がどんどん早期化していったし、反対に、送り出す側の学校では、キャリア教育が前倒しされていった。大学4年生になって、はじめて就職を意識した時代ははるか昔のことであり、いまでは、キャリア教育に熱心であることを謳い文句に、大学1年生のときから、就職を意識させるのが普通だ。

 その渦中にある学生には、いわゆる「二極化」と呼ばれる現象が表れてくる。キャリアに熱心で優秀な若者は、入学時点で早々に卒業後のことを考え始めている。その傾向は高校や中学にも飛び火し、14歳のときから、どんな会社に勤めるかということを考え始めている。

 たとえば、高校生向けの大学説明会で、「卒業後には、どんなところに就職できるのですか?」と、見るからに真面目そうな生徒が、進路決定のための情報として、大学卒業後の就職実績を質問したりする。そのとき、「(卒業後のことは、入学してから心配しろ!と内心で思いながら)大学生活の過ごし方によって、就職先は変わるのですよ」と説明しても、きょとんとされてしまう。

 一方で、はっきりとした目的意識もなしに進学してきた学生にとっては、大学に入ってさらに、職業や社会との接点が持てなくなり、卒業後の進路を決める段になっても、働くという実感を失っている。社会が豊かになったおかげで、ニートやフリーターなどで食いつなぎ、就職という道から早々に降りてしまう人も少なくない。

 そして、この二極の中間に、将来に不安を覚えて、身動きが取れなくなっている多数の若者がいる。