不安と失敗の呪縛

 ハーバード大学のダニエル・ギルバートによれば、人間の脳は「先読みの装置」だ。その脳が、将来の不安や心配にハイジャックされ、頭がいっぱいになってしまうと、行動を起こそうとする意欲がわかなくなってしまう。

 皮肉なことに、「失敗したくない、ミスをしたくない」と心配して慎重になると、かえって身体が強張ってしまい、普段は起きないミスをすることがある。そうすると、ますます気持ちが縮こまってしまう。不安と失敗の呪縛には、本人を縮こまらせる魔力があるものだ。

 繰り返しになるが、大学生の就職率も高校生の就職率も、実は、9割程度で安定している。それにもかかわらず、「就職が厳しい」という噂が絶えないのは、連載第1回にも書いたように、一人の応募者がたくさんの企業にエントリーし、面接でたくさん落とされてしまうからだ。

 面接を何度受けても内定をもらえなければ、自己否定的な本人の思い込みによって、自分に失敗の烙印を押してしまう。面接で次に進めない場合に、どこがいけなかったのかという理由は伝えられることはない。「○○をお祈り申し上げます」という不採用通知(お祈りメール)の慇懃さの下で、冷淡で人間味のない扱いを受けたり、「縁がなかったもの」として何の通知もなく、会社側から無視(ネグレクト)されてしまう。だから、本人が受ける心の傷は、想像以上に深いものとなる。

 精神的ダメージは、自分の非を厳しく咎められるより、ネグレクトされるほうが大きい。それが、精神的痛みを受け止めることに慣れていない若者であれば、内に引きこもったり、突然攻撃的になったり、周囲に無関心になったり、情緒が不安定になったりしても、無理もないことだろう。

 しかし、キャリア教育を通じて、一人ひとりの精神的ダメージをケアすることはできない。また、キャリア選択に失敗したり、面接に失敗したからといって、それを自己責任で片づけてしまうこともできない。

 だから、どうしてもリスク回避的になり、将来のキャリアについて早くから考えさせ始めたり、ESの書き方や面接の指導をしたりする。最悪の状況を避けるべく、生徒や学生をインターンシップで職場に連れ出し、キャリア教育を徹底して、職業意識を高めようと働きかけている。それがキャリア教育の一面だ。