ところで、われわれは何を幸せと感じるのか? 近年、「幸福の経済学」が花盛りを迎えているが、そもそも幸福というものは、いつも矛盾をはらんでいる。有名なものには、経済的豊かさが幸福に結びつかないという矛盾がある。「経済的幸福のパラドクス」と呼ばれている現象だ。

 南カリフォルニア大学(USC)のリチャード・イースターリンは、所得と幸福度の関係を分析し、所得水準が低い層では、所得が高くなれば幸福度が高くなる右肩上がりの傾向が見られるのだが、高所得者層ではその関係がなくなってしまうことを示した。また、国際比較では、とくに先進国の間では、国の所得水準(GDPP)と幸福度には関係がないことを示したのである。

 図を見てほしい。一人あたりのGDPは上昇傾向にあるが、生活満足度(幸福度)は右肩下がりだ。ここから、「一定水準以上の富は幸福に影響しない」という恐るべき結論を引くことができるのだ。

 このパラドクスを受けて、「世界一幸せな国」ブータンが注目を集めている。中国とインドという2つの大国に挟まれたブータン。隣国を合わせれば、世界の人口の約38%を占める地域にあって、経済的貧困にあったアジアの小国である。

 先代のジグミ・シンゲ・ワンチュク国王は、1972年に17歳で王位に就くと、インド人記者から、「ブータンの国民総生産はどのくらいか」という質問を受けた。その質問に対し、青年国王ワンチュクはこう答えた。「どうして総生産にこだわるのですか? 考えるべきなのは国民の幸福量ではないのですか?」