経済的発展が最善とされた当時、このような王の考え方は、いわゆる「仏教経済」として一蹴され、まったく関心を向けられることはなかった。しかし、40年後の現在はどうだろう。
ブータンは、「国民総幸福量」(Gross National Happiness:GNH)の測定に、国を挙げて努力したために、いまでは「世界一幸せな国」と言われるようになっている。そして、西欧からは仏教的と見下された「国民総幸福量」は、経済発展に代わる国家目標として、世界40ヵ国以上で取りざたされるようになっている。
心理的幸福の矛盾
幸福は、さらなる矛盾を含んでいる。それは、「心理的幸福のパラドックス」とでも言える現象だ。
自分の身に降りかかってくるとすれば、皆さんは、宝くじに当たるのと半身不随になるのと、どちらが幸せになれると思いますか?
フツーの人は、障害者は大変でかわいそうだから、宝くじに当たるほうが幸せだと思っている。ぜったいそうだと信じ込んでいる。確かに、そのことが起こった時点では、宝くじに当たった幸運な人は、気分がとても高揚するし、半身不随になった不運な人は、気分がひどく落ち込んでしまう。それはまったく自然なことだ。
しかし、22人の宝くじ当選者と29人の障害者を比較したノースウェスタン大学のフィリップ・ブリックマンらによる調査によると、極端に幸運な人も、極端に不運な人も、数ヵ月も時が経つと、幸福度はもとの水準にまで戻ってしまい、幸運な人も不幸な人もなくなってしまう。驚くべきことに、2ヵ月も経つと、不運な人と幸運な人とでは、幸福度は変わらなくなるのだ。心理学では、このことを慣れ(馴化=じゅんか)と呼んでいる。
『バック・トゥ・ザ・フューチャー』3部作で一世を風靡したマイケル・J・フォックスをご存じだろうか? 30歳の若さでパーキンソン病を発症し、銀幕を去った。その後、自身の境遇から発起し、「マイケル・J・フォックス パーキンソン病リサーチ財団」を設立したハリウッドの元俳優だ。