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厳然と存在する「クラスの天井」
あなたの部下に、資格や資質、成果も同等レベルの人物が2人いるとしよう。片方は、昇給や昇進、やりがいのある担当業務などを要望し、もう片方は特に何も主張しない。多くの企業では、前者の人物は積極性があると見なされて、本人の望む扱いを受けやすい。それに対し、後者の人物は現状に満足していると思われてしまう可能性がある。
リーダーの中には親切心により、積極的でない部下を手助けすべく、自己主張の方法を教えようとする人もいるだろう。交渉のトレーニングを行ったり、スキルを習得させたり、励ましたり。そうしたことにも価値はある。しかし、これらの対策は、誰もが同じくらい交渉を選択肢として捉えており、主体的に交渉を開始できる立場や環境に同等にあり、交渉した際には誰もが同じ基準で評価される、ということを前提にしている。
筆者らが最近、『プロシーディングズ・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンシズ』誌(PNAS:米国科学アカデミー紀要)に発表した研究によると、こうした前提が当てはまらない局面がある。企業の現場でしばしば見落とされている断層がその原因となる。その断層とは、社会階層の違いだ。
社会階層が低い人は、社会階層が高い人と比べると、他の面では同等だとしても、あまり交渉しようとしない。その結果、社会階層が低い人は、給料が低く、昇進の機会も乏しい。この問題は、「ガラスの天井」ならぬ、「クラス(階層)の天井」が生まれるパターンの一つといえる。
ひときわ問題なのは、社会階層が低い人たちは、合理的な計算の下、交渉を避けている可能性があることだ。このような人たちは、職場で何かを要求すると、気難しいと思われたり、人間関係を損なったりしかねないと心配する傾向が強い。
この懸念は、筆者らの実験によっても裏づけられている。実験によれば、同じことを要求しても、社会階層が低い人たちはそうでない人たちより、強い反発を買いやすい。
この実験では、採用選考の場面で、履歴書の情報(加入しているクラブ、趣味、一家の姓など)と、ロールモデルおよび家族に関する自身の説明により、採用候補者の社会階層が評価者に伝わるようにした。すると、社会階層が低い候補者が交渉を行うと、協調性に関する評価でより大きなペナルティを課されることがわかった。
その結果として、社会階層が低い人たちは、いわゆる「ダブルバインド」の状態に置かれる。自分の要求を伝えなければ、経済的に不利な状況がずっと続くことになりかねない。しかし、自己主張をすれば、対人関係の面でペナルティを課される可能性があるのだ。
このようなパターンは、女性が交渉しようとする場合に直面する反発や逆風に関する研究結果を連想させる。筆者らの研究によれば、社会階層もまた、同じ自己主張という行為が異なる基準で評価される目につきにくい境界線の一つであることが示唆された。
しかも、これは公平性だけの問題ではないということだ。誰が最も多くのものを提供できるかではなく、誰が積極的に主張するかによって昇進が決まる会社では、未来のリーダー候補の質が劣化し、真に有能な人材を活用できなくなる。
こうした問題に対処するために、シニアリーダーが交渉への扉を開くだけでは十分でない。交渉というシステムを意識的に再設計しなければ、「クラスの天井」を再生産しかねない。
筆者らの研究
筆者らは合計1万1344人の実験参加者を対象に5つの研究を行い、社会階層と交渉への積極性の間に関連があるのか、なぜこの点で差が生まれるのか、交渉への姿勢の差はキャリアにおけるさまざまな結果にどのような影響を及ぼすのか、評価者の側は交渉する人にどのように反応するのかを調べた。一連の実験では、ある人の社会階層を判断する基準として、教育、所得、社会階層に関する主観的評価、出身家庭の社会階層(親の教育レベル)を用いた。
1つ目の研究では、オーストラリアの全国代表サンプル7883人(多様な企業でさまざまな職種に就いている人たち)について分析した。







