創業者一族が支配権を失う3つの罠
Victor Torres/Stocksy
サマリー:ファミリービジネスを展開する創業者一族が支配権を失う原因は、突発的な危機よりも世代交代への準備不足であることが多い。後継計画や一族の共通方針、適切なガバナンスを欠けば、支配権は徐々に失われ、気づいた時には会社を手放さざるをえなくなる。本稿では、創業者一族が支配権を失う共通の罠とその背景を明らかにするとともに、将来のオーナー育成や家族の人間関係の構築など、意図せぬ支配権喪失を防ぐための処方箋を提示する。

創業者一族が支配権を失う要因は、往々にして本人たちにある

 3代続くメディア企業*の家長が急逝した時、会社は安泰だと創業者一族は信じていた。その家長は、父親が立ち上げたビジネスを、その国で最大級の新聞社(未上場)へと成長させた。収益は好調で、企業価値も10億ドル近かった。成人した子どもたち5人は、それぞれ異なる分野で才能を発揮していたが、父親が築き上げたメディア帝国を守るべく取締役会に名を連ねていた。とはいえ、父親の愛情を得ようと幼少期から競い合ってきたため、きょうだい間の絆は乏しかった。

 だが、それから3年もしないうちに、創業者一族は、ピーク時のほんの数分の一の価格で会社を売却せざるをえないと考えるようになった。

 表面的には、伝統的な紙媒体がオンラインメディアに取って代わられ、業界が大きく傾いているため、売却もやむなしと苦渋の決断を下したように見えた。その会社は変化に対応できていなかったため、創業者一族としては、まだ会社に何らかの価値があるうちに手放したいと考えた。3代目のきょうだいたちは、売却こそが最善の道だと判断した。

 だが、筆者らには別のものが見えた。事業を継続するか、売却するかを判断するに当たり、オーナーたちと緊密な協力を始めてみると、彼らがとうの昔にファミリービジネスに対する支配権を失っていたことがわかった。先代は生前、株式を分割する信託を設置する以外に、後継者候補を有意義なポジションにつけることも、真の意味での後継計画を策定することもなかった。彼の死後、子どもたちは、書面上は会社のオーナーだったが、経営面の決定は経営のプロに委ねるほかないと感じていた。

 創業者一族には会社に何を求めるかについて一致した見解も、経営陣に異議を唱える経験もなく、ガバナンスの要となる独立した取締役もいなかった。そのため、一族の権威は弱まっていった。彼らがいかに多くの支配権を譲り渡してしまったかに気づいた時には、会社は傾き、売却するしかないと感じられるようになっていた。では、買い手は誰か。それは、売却価格の下落を放置し、会社が傾くことをそのままにしてきた経営陣だった。

 創業者一族にとって、売却の決断は、不運と厳しい市場環境が重なった結果のように感じられた。だが、筆者らから見れば、それは残念なほどに予測可能な展開だった。

 筆者らが、ファミリービジネスを展開する数百社に助言してきた経験から言えることは、創業者一族が支配権を失う原因となったのが、たった一つの壊滅的な出来事であることはめったにない。むしろ、創業者一族が世代交代の準備を怠った場合に起こることが多い。

支配権を失う3つの共通原因

 創業者一族が会社の支配権を失う時、「誰の責任か」が議論の焦点になることが多い。冒頭に紹介したファミリービジネスのように、現在の世代や次の世代が、壮大なビジネスを崩壊させたと批判されがちだ。しかし現実には、準備不足と無理な期待、そして側近のサポート不足といった要因が重なって、次の世代は不利な状況に追い込まれる。

 そこに共通するのは、先代(と独立した取締役と顧問)が、将来の経営者を育成することに膨大なエネルギーを費やす一方で、もう一つの重要なポジション、すなわち将来のオーナーの育成には、はるかに小さなエネルギーしかそそがないことだ。