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一人で仕事ができる時代、人間の協働に価値はあるのか
AIツールの登場によって、「ソロ起業」の現実味が高まり、テクノロジー関連のスキルを持たないイノベーターでも、実際に機能するプロダクトを生み出せるようになっている。AIの普及に伴って、「一人でつくる」という考え方がスタートアップだけでなく、大規模な組織にも広がっている。
AIは、イノベーションのライフサイクル全般において「実行」をコモディティ化している。プロダクトマネジャーはコードを一行も書くことなく、実際に動くプロトタイプを作成し、開発者はソフトウェアの開発やテスト、文書作成、データ処理を迅速化できる。
こうした状況から、重要な問いが浮かび上がる。人間同士の協働は今後も必要で、価値を持ち続けるのだろうか、という問いである。仕事の基本的な単位が「チーム」から「AIを使う個人」へと移りつつあるのだとすれば、組織の形や人材の採用方法、職場で価値を持つとされる人材の定義が大きく変わることになる。これは単なる生産性の議論をはるかに超える問題だ。
筆者らはこの問いを検証するために、最近、ニューヨーク大学スターンスクール・オブ・ビジネスの学生とともに「ビルダソン」(短期間で実際に動くプロダクトやサービスを集中して開発・構築するイベント)を実施した。異なるスキルを持つ学生で構成されるチームに、共通のAIツールを使って、現実社会の複雑な課題を1日で解決するよう求めたのである。
筆者らが調べたかったのは、ブレインストーミングで発想を広げる段階と、意見を収束させて意思決定を行う段階で、学生たちがAIをどのように取り入れているのか、そして、イノベーションのサイクルのどの部分で、引き続き協働が有効なのかという点である。
8つのチームが現実の課題を1日で解決する
この調査では、33人の学生に6時間という時間制限を与え、食料品の価格負担、交通の公平性、自転車レーンの安全性、保育サービスへのアクセスなどニューヨーク市が抱えるさまざまな難題の解決策を考えてもらった。いずれも複数の要因が絡み合う複雑な問題で、何をもって「成功」とするのかも難しいトピックだ。
参加者は4~5人のチームに無作為に振り分けられ、全員が同じツールを使えるようにした。まず、リサーチとアイデア創出用のAIツールで問題を理解し、対象となるユーザーを特定した。次に、プロトタイピングツールを使って、具体的な解決策を設計した。最後に、ラバブルやヴァーセルといったエージェント型コーディングプラットフォームを利用して、実際に機能するデモ版を作成した。すべての作業は、共通のデジタルキャンバスである「ミロ」上で行われ、誰が何をしているのかを全員がリアルタイムで見ることができた。
重要なのは、ほとんどの学生にエンジニアリングの経験がまったくなかった点だ(スキルが均等になるようなチーム編成が行われたわけでもない)。また、チームメンバー同士もほぼ面識がなく、こうしたツールを使った経験もなかった。
さらに、競争の要素もあった。キャリア形成につながる賞品が用意され、技術的な実行力より、問題の定義と解決策の設計を明確に重視する審査基準が提示されていた。つまり重要なのは、誰が最も速く形にできるかではなく、誰が正しいものを形にできるか、だった。
もしもAIによって本当にイノベーションが「個人競技」に変わるのであれば、まさに、その転換が起こるのにぴったりの環境だ。強力なツールを与えられた優秀な人材と、厳しい時間的制約。作業を分担して同時並行で進め、各自がAIに大部分の作業を任せるだけのインセンティブは十分に揃っていた。
しかし、実際にチームを観察し、参加者の話を聞いてみると、それとは異なる実態が浮かび上がってきた。
問題の定義と解決策の設計
参加者たちのワークフローを観察し、インタビューを実施したところ、ほぼすべてのチームに共通する2つの明確なパターンが浮かび上がった。
課題に取り組み始めた当初は、各チームとも、どの問題領域に焦点を当てるかを話し合い、問題の核心を理解して枠組みを設定し、対象となるユーザーを定義していた。このプロセスでは、チームメンバーはAIを共同で、または同時並行で利用しながらリサーチを行い、データを統合していた。そして、分析結果を持ち寄って議論し、問題領域についての自分たちの認識を収束させていった。学生たちがテーブルを囲み、活発に意見を交わす光景は、MBAコースでの昔ながらのブレインストーミングさながらだった。
その後、大半のチームが実行段階の作業を分担し、プロトタイプの設計・開発の担当と、ピッチやストーリーづくりの担当に分かれた。この段階では、メンバーがそれぞれAIを使いながら自分の担当作業に取り組んだが、解決策の設計に関しては再び集まって議論したり、妥当性を検証したりした。
AIが処理できる、または人間の代わりに実行できる作業(リサーチ結果の統合、デザイン案の生成、インターフェースの構築など)については、メンバーが手分けし、同時並行で作業を進めることで、たしかに速く進んだ。しかし、問題の定義という領域については、どのチームも一様に、より多くの時間をかけて、得られた情報について話し合い、互いの前提に異議を唱え、自分たちが解決すべき課題とその解決法を共同で決めていた。ある参加者は「問題を定義することが最も重要だ」と語り、別の参加者は「AIの助けがあっても、具体的な一つの課題に範囲を絞り込むのは難しい」と話した。








