AIが「顧客」になる時代に、どれだけ備えられているか
Illustration by Kati Närhi
サマリー:AIエージェントが買い物を代行する「エージェント型コマース」の台頭により、顧客の主体が人間から機械へとシフトしつつある。従来の人間向けマーケティングや不完全な商品データでは、アルゴリズムによる購買選択が当たり前になる世界の中で生き残れない。企業にはAIを「顧客」と捉えた新たな準備態勢への移行が急速に求められている。本稿では、アルゴリズム時代に向けた企業の準備態勢を評価するアルゴリズミック・レディネス・オーディット(ARA)の5つの柱と具体的対策を紹介する。

「顧客」は人間からAIへ移行している

 2025年4月、アマゾン・ドットコムは新機能「バイ・フォー・ミー」をリリースした。この機能では、顧客がアマゾンのアプリ内に留まったまま、AIエージェントが他社ブランドのウェブサイトを訪問し、商品を選択し、支払い情報を入力し、購入を完了させる。同年9月には、オープンAIがオープンソースのエージェンティック・コマース・プロトコル(ACP)により、チャットGPT内で直接、購入を完了できる「インスタント・チェックアウト」を導入した。

 2026年1月、グーグルは全米小売業協会の年次イベントで、ユニバーサル・コマース・プロトコル(UCP)を公開した。それは、ショッピファイ、ターゲット、ウォルマート、その他20社以上の提携企業と共同で構築したオープン標準規格で、商品発見から購入後のサポートまでの買物プロセスを全体的に扱う。同じイベントで、マイクロソフトは「コパイロット・チェックアウト」をリリースした。

 そして、ショッピファイはその後、数百万の加盟店に対し、エージェントが読み取ることができるストアフロントを初期設定として適用した。現在、調査会社ガートナーは、2028年までに、B2Bの購買の90%、つまり15兆ドル以上が、AIエージェントを通して取引されると予測している。

 そこには、はっきりとした傾向が見られる。何が必要かを判断するのは、依然として消費者だが、買物はアルゴリズムが実行することが増えている。顧客はいまもなお消費者だが、もはや買物客ではない。「買物客の分裂」と筆者が名づけた、この構造的分離は、これまでのどのデジタル・ディスラプションの波とも性質が異なる。eコマース、モバイルコマース、ソーシャルコマースは、買物客の関わり方を変えたが、買物客は人間のままだった。ところが、エージェント型コマースは、人間の買物客を完全に置き換えてしまう。

 人間の買物客を説得することを前提にしてきた企業は、買い手が機械である場合の競争に対して、まだ準備が整っていない。AIエージェントは商品のパッケージを見ないし、ブランドの物語にも反応しない。エージェントは構造化されたデータを解析し、アプリケーション・プログラミング・インターフェース(API)にクエリを送り、マーケティングチームが長年かけて構築した感情的な共鳴とはまったく無関係な基準で商品を評価する。今日の商品データシステムの大半は、人間が閲覧する目的でつくられた洗練されたパンフレットだ。AIエージェントにそれを読み取れと言うのは、スプレッドシートに詩を読み取れというようなものだろう。

 NIST(米国国立標準技術研究所)やCOSO(トレッドウェイ委員会支援組織委員会)による既存のAI準備態勢の枠組みは、導入したAIツールをどう管理するかという内部ガバナンスを扱っている。だが、より切迫した問題、つまり、もしAIが自社のツールではなく顧客であれば、どうなるのかという側面を見落としている。アルゴリズム時代への準備態勢を診断するツール、アルゴリズミック・レディネス・オーディット(ARA)は、そのギャップを埋めるものだ。リーダーチームは、以下で紹介するARAの5つの柱について、組織の現状を4段階の成熟度(立ち遅れ、発展途上、適格、先進的)で評価し、最初の90日間で取るべき具体的対策を特定すべきである。

第1の柱:戦略とリーダーシップの準備態勢

核となる質問:最高幹部の間で、エージェント型コマースについて、切迫感のある共通理解があるか。それとも、いまだにニッチなeコマースの問題として扱われているか。

 立ち遅れている企業では、このトピックはeコマースかIT部門の責任者に任せられている。それは、のちのち振り返ると、1998年にインターネットをITの問い合わせ窓口に丸投げしたことと同じように見えるだろう。真のリーダーかどうかを分けるのは、共通の強い信念だ。それは、CEO、CMO(最高マーケティング責任者)、最高商務責任者、そしてCTO(最高技術責任者)が一貫してエージェント型コマースの意味を説明でき、常設の議題として扱われ、取締役会が承認したアルゴリズム型顧客獲得のビジョンがあり、指名された経営幹部が変革の責任を担うというものである。さまざまな部署に責任を分散することは、失敗を確実に予想させる要因だ。

 この傾向は、消費財業界だけに見られるものではない。オーストラリアのある大手ビジネスサービス企業の上級パートナーも、同様の経緯を話してくれた。同社では1年半の間、アルゴリズム型コマースは、経営幹部会議でほとんど話題に上らなかった。だが、いったん、それが経営委員会の常設の議題となり、変革のスポンサーが任命されると、6カ月のうちに、提携するプラットフォーム3社とのパイロットプロジェクトが開始された。このように、業種も大陸も異なる企業が、同じ転換点を経験しているのである。