AIを活用したイノベーションのプロセスに潜む人間特有の課題
Tatyana Lavrova/Stocksy
サマリー:生成AIの普及に伴い、企業はイノベーションの効率化とアイデア量産を期待してツール導入を進めている。背景には、従来の創出や審査プロセスにおいて人間特有のボトルネックが存在していたことがある。本稿では、AIの安易な活用が逆にボトルネックを拡大させる構造を解き明かし、持続的なイノベーションに向けた再設計のアプローチについて、具体的な処方箋を提示する。

AIとイノベーション

 いまや、どこのイノベーションチームも同じ道具を持っている。同じ基盤モデルと、似たようなプロンプトライブラリだ。にもかかわらず、成果には大きなばらつきがある。「創造性の復興」を実感しているチームもあれば、すべて一人の人が考えたかのような均一で記憶に残らないアイデアだけが大量に出るというチームもある。その理由は、使用モデルの違いではない。生成AIが、イノベーションのプロセスに埋もれた人間側のボトルネックに作用するからだ。これらのボトルネックは、AIに対してそれぞれ違った反応を示し、時には正反対の反応を示すこともある。

 これが、ハーバード大学、ウォートンスクール、ノースウェスタン大学、コロンビア大学の研究者である筆者らが国際学術雑誌『International Journal of Research in Marketing』(IJRM)に執筆依頼を受けて作成した最新のワーキングペーパーの主旨である。生成AIに何ができるかを問うのではなく、これまでイノベーションを停滞させてきた認知的・社会的・組織的制約とは何か、そしてAIはそれらとどう作用し合うのか、という長期的な問いを立てた。

 この問いに答えるため、筆者らは生成AIとイノベーションに関する近年の実証研究(アイデアの多様性、AI生成の仮想消費者モデル、アイデアのアルゴリズム選別、発売後分析など)と、創造性、不確実性下の判断、消費者行動に関する数十年の確立した研究の結果を統合した。以下の4つの段階ごとに、根底にある人間の制約は何か、生成AIを「そのまま」使った場合、それはどう変わるのか、より意図的な再設計はどのようなものか、という同じ3つの問いを立てた。この一貫した構造により、一見まったく異なるボトルネック(審査委員会の新規性への偏見や、本当にほしいものを言えない消費者)についても、AIがボトルネックを解消しているのか、それともひそかに悪化させているのかという同じ診断的な問いを適用できた。

 この答えは、イノベーションマネジャーが考えている以上に重要である。実際、これらの制約の中には、生成AIが本当に解消できるものもあるが、よくなったように見せかけながら、むしろ悪化させるものもある。そして、将来考えうるどのようなモデルにも、けっして触れることのできないものもある。

AIがイノベーション問題を解決すると考えることの問題

 AIとイノベーションに関する議論は、大方、AIがイノベーションのプロセスで起こる摩擦を一様に取り除けるという前提に立っている。人間のイノベーターの役割を完全に置き換え、アイデアの量産、検証時間の短縮、調査のコストダウン、学習の迅速化により可能だと考えている。筆者らの枠組みは、その前提に異議を唱える。アイデア創出、選別、消費者インサイト、市場学習というイノベーションのプロセスにおける4段階にわたってボトルネックを追跡したところ、ほぼすべての段階で、AIのデフォルト効果(意図的な再設計をせずに「そのまま」使った場合)は、根本的なボトルネックを縮小するどころか、むしろ拡大していた。

 その理由は、イノベーションにおけるボトルネックの大半が、技術の問題ではなく人間の問題だからである。人はどうしても見慣れたアイデアに惹かれる。審査委員会は何を「有望」と見なすかについて集団的な固定観念を形成する。消費者は見たことのないものをほしいといえない。生成AIは、既存の人間の出力を使って学習しているため、まさにボトルネックを生み出したのと同じ傾向を、しかも速く、大規模に再現してしまうのである。

 以下に、イノベーションの各段階で生成AIが人間のボトルネックをどう拡大するのか、そして何をすべきかを示したい。

アイデア創出:典型に引っ張られる

 アイデア創出とは、新しい製品・サービス・機能の候補となるコンセプトを生み出すプロセスである。よい案が何十個あっても、ずば抜けて優れた一案には及ばないため、課題は「多くの無難な案を出すこと」ではなく、真の外れ値を見つけ出すことである。つまり、アイデア創出は、本質的に例外の探索であり、効率的生産ではない。

 明確な構造なしにLLMを使ってブレインストーミングをすると、2つのことが同時に起きる。まず、モデル自体が統計的に見て標準的な答えに引き寄せられる。なぜなら、そもそもモデルは最も次に来る確率の高い単語を予測してフレーズを完成するよう訓練されているからである。さらに、人はその典型的な答えを読むと、それに引きずられて、思いつけたはずの独創的なアイデアを考えられなくなる。その結果、AIが狭い考えを示し、それが人間の発想も狭めるという2段階の気づきにくい収束が起きる。

 しかも、これはシステムレベルで起きる。生成AIの学習データは似通っているため、異なる企業の独立したチームがAIを「創造的活動」に使っても、同じ数個の方向性に収束しがちになる。つまり、個々の生産性は向上しても、市場全体の多様性は低下するのである。

 この場合の改善策は、人ではなくモデル側にある。Chain-of-Thought(CoT:思考の連鎖)プロンプティング、つまりモデルにまずドラフトを作成させ、その後、より大胆で独自性のある方向に修正させる手法は、AIに対して非常に有効である。だが、同じ手法を人間に適用しても、本人の思考改善にはつながらない。人はAIが示した最初の案に囚われてしまい、「もっと広く考えよ」と言われても効果がなく、かえってAI案が頭から離れなくなることさえある(よくある「考えないようにすればするほど頭に浮かんでくる」問題の一種)。

選別:「こなれた」LLM案に引っ張られる

 選別とは、企業がどのアイデアに予算をつけ、どれを棚上げするかを決定する段階である。通常はステージゲート審査委員会やポートフォリオ検討会で行われる。市場反応が未検証で、アイデア自体が完全に定まっていない不確実な中での判断となるため、審査者が意識的にせよ無意識的にせよ何を最適化するかが、その後に会社が何をつくるかを左右する。