実店舗への投資で「成果を出す企業」と「伸び悩む企業」の違い
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サマリー:実店舗の衰退が語られる一方、成長企業は出店を加速している。重要なのは店舗の有無ではなく、戦略的役割の設計だ。店舗形式や商品、在庫、人員を最適化し、店舗単体ではなくECを含む全チャネルで生み出す顧客価値を基準に、投資効果を評価する必要がある。本稿では、小売業者のデータ分析をもとに実店舗が顧客体験において果たすべき役割を解き明かし、持続的な価値を創出するための具体的な投資戦略と組織連携のあり方を論じる。

顧客への総合的な価値で出店を判断する

 いまや実店舗は、再起不能な衰退をたどっていると考える人がいたとしても無理はない。多くの商店街には空き店舗が目立ち、消費支出に占めるECの割合は拡大し続けている。だが、小売業界で最速の成長を遂げている企業の一部は、実店舗をなくしていない。それどころか、出店を加速させている。ECのみのアイウエアブランドとして始まったワービーパーカーは、2025年末時点で323店舗を持ち、2026年にはさらに50店増やす計画だ。

 大型小売業者も実店舗に投資している。米国の化粧品小売りチェーン大手アルタビューティは2025年、米国内の店舗が60店純増となり、全店舗数は4%以上拡大して1500店を超えた。これは小売業界でも最速水準のペースだ。時代に逆行するかに見えるトレンドは、欧州でも見られる。欧州で最もデジタル化が進んだ市場の一つであるオランダでは、非食品特化型ディスカウントストアのアクションや、ウェルビーイングブランドのリチュアルズなどの実店舗型小売業者が成功を収めている。ECが主軸の家電・電子機器小売りのクールブルーも、2015年の年間売上高は5億5500万ユーロで実店舗数は7店だったが、現在は同25億ユーロ以上で40店舗以上(ベルリンの旗艦店を含む)を持つ。

 こうした事例が示す現在の最も重要な問いは、「実店舗に未来はあるか」ではなく、「リーダーはいかに実店舗に投資すべきか」である。顧客体験のデジタル化が進む中、実店舗はどのような戦略的役割を果たすべきなのか。企業はいつ利便性を優先し、いつ豊かな体験重視の店舗中心のフォーマットに投資すべきなのか。限られたスペースや、在庫や、従業員のリソースを割く価値があるのは、どのような顧客や商品やサービスなのか。そして、新店舗により別の販売チャネルから売上げがシフトしつつある中、顧客への総価値が高まっている場合、その成功をどのように評価すべきなのか。

 この課題は、マルチブランドを扱う小売業者の場合、とりわけ顕著になっている。店舗拡大に関する知見の多くは、ワービーパーカーや、メンズアパレルブランドのボノボスといった、垂直統合型のモノづくりで単一ブランドを扱う企業からもたらされている。それらの店舗は、独自ブランドの商品のみを扱い、ブランドとオンラインチャネルの両方を強化できる。だが、ほとんどの大型小売店は、他でも扱うサードパーティブランドを販売しているため、より難しい問題に直面している。独自ブランドを頼りに来店を促すことはできず、競合他社にショールーミング(来店客は商品をチェックするだけで、実際の購入はもっと安い店か配達が便利な店に流れてしまう)の機会を与えてしまう事態を阻止しなければならない。

 このように困難な状況を検証するため、筆者らは、ECを主軸とするマルチブランド家電小売業者の取引データを2年2カ月分集めた。新たに開店する3店舗(2つは体験重視の大型店舗で、1つは利便性重視の小型店舗)の周辺地域(2388個の郵便番号エリア)をカバーするものだ。そして近隣地域の変化を、同様の条件の他の地域の変化と比較して、出店の効果と、それまでの売上動向を区別した。また450人の顧客にアンケート調査を行い、その効果がカテゴリーによって異なるかどうかを調べた。情報収集と商品受取、返品のプロセスにおける実店舗の相対的な価値を測定して、顧客の認識と、観察されたカテゴリーレベルの売上効果とを結びつけた。

 『Production and Operations Management』誌に掲載予定の論文にまとめた通り、実店舗への投資を成功させるためには、一連の選択が必要だ。実店舗の役割を定義し、適切なフォーマットを選び、物理的な接触がプラスになるカテゴリーを特定し、それに応じてスペースと在庫、テクノロジー、従業員の能力を調整する必要があるのだ。店舗は、単独あるいはECでの売上げへの影響のみによって評価されるべきではなく、すべての販売チャネルで、全顧客体験を通じて生み出される総合的な価値として評価されるべきである。

販売チャネルごとに考えるのをやめる

 小売業者の研究をしていると、実店舗とECとで損益計算書を分けている会社がよくある。これは実店舗にも、ECにも、みずからの売上げを守ろうという意識を持たせてしまい、実店舗の評価をゆがめてしまう。ECの売上高の減少はECの失敗の兆候に見えるし、実店舗の力強い売上高は単に販売チャネル間で購入がシフトしたにすぎないにもかかわらず、実店舗が成功しているように見えるかもしれない。逆に、出店後のECの売上げの伸びは、その一部はいずれにせよ発生していたはずのものなのに、ハロー効果だと誤解される可能性がある。重要なのは、単に開店後に起きたことではなく、店舗によって引き起こされた変化だ。

 筆者らの調査結果は、その理由を示している。新しい実店舗の開店から4カ月間は、3店舗すべての近隣地域のEC純売上高(オンライン購入額から返品額を差し引いた額)は8~11%減少した。しかし、体験重視の2つの大型店舗は、そのマイナスを十分すぎるほど相殺し、すべての販売チャネルを合わせた総純売上高はそれぞれ21.7%および23.2%増加した。実店舗では、より長期間にわたる観察ができ、売上高の伸びは最終的には27.5%に達した。これに対して、利便性を重視した小型店舗の場合、やはりECの売上高を同じくらい侵食したものの、総純売上高の有意な増加は見られなかった。

 小型店舗の売上げが振るわなかったのは、テレビや洗濯機といった大型家電を取り扱えないからだと思われるかもしれない。だが、ECと実店舗の両方で扱っている商品カテゴリーに限定して比較しても、大型店舗の売上増はほとんど変わらなかったのに対し、小型店舗では依然として有意な売上増は見られなかった。この違いは、店舗の品揃えではなく、顧客が店内で何をできるかに起因していたのだ。