自分のベンチャー事業を趣味だと考えている起業家は、どれくらいいるだろうか。つまり、他にもいろいろな仕事をしているが、その1つとしてベンチャーをしている、というような場合である。おそらくあまり多くはないだろう――特にうまくいっている事業の場合は、まれだと思われる。だが、個人ではなく企業の場合、成長している新規事業をそのように取り扱っていることは多い。

 どうしてそうなのだろうか。多くの企業では、社員にパートタイムで、言わば片手間で新規事業に取り組むようにさせている。社内で「イノベーション・チーム」が結成されると、メンバーが同時に複数の仕事を兼務せざるを得ない場合がある。あるいは、新規事業に取り組むのは「余分な時間」にするように、と指示している企業もある。

 専任メンバーでなくとも、あるプロジェクトに参加して、大いに貢献することはありうる。それが会社のコア事業と密接に関連したイノベーションであれば、重要な役割を果たすことも可能だ。

 だが、まったく新規の事業の場合は、余暇やパートタイムで取り組むことはできない。常に注意を払うべき課題が多すぎるのである。「ほとんどの新規事業が失敗する」という記事を以前に書いたが、創業チームが熱心に、片時も怠ることなく努力した結果でさえそうなのである。

 細切れの時間を使って事業を成長させようという取り組みは、イノベーションの進展を遅らせるだけで済むならまだよい。最悪の場合、破壊的なイノベーションを新たに求めるどころか、従来の慣れ親しんだ事業モデルに引きずられて、知らず知らずのうちに後退する羽目になるだろう。

 しばしば、これを報酬の問題と考える経営者もいる。事業を自ら起こした起業家は、その金銭的な果実をすべて得ることができるのでひたすら一生懸命に働く、という解釈を根拠としているのだ。これは部分的には正しいと思う。しかし実際には、報酬がどうこう以前に、ある新規事業のことだけを考えながら毎朝起きればよいのと、さまざまなことを考えながら起きるのとでは、大きな違いがあるということだ。

 限りある経営資源を、ただ1つの事業機会に完全に集中させることは難しいように思えるかもしれない。だが実際は、この集中こそが、破壊的な成長を遂げる事業を生み出す一番よい方法である。また、チームを少数精鋭にして目標を明確にするとともに、事業からの撤退や方針転換、あるいは成長を加速させるといった経営判断をある程度迅速に行えば、かならずしも経営資源のロスが起こるわけではない。

 新規事業を立ち上げるというのは、それほど大変なものである。社員にパートタイムで担当させるような愚を犯せば、さらに成功が困難になってしまうだろう。


原文:The Danger of Part-Time Business Builders March 22, 2010