なぜ意思決定の場は混乱するのか

 あるグローバルテクノロジー企業では最近、12人の経営幹部がテーブルを囲み、白熱した議論の末に最終決断を下そうとしていた。議題となっていたのは、事業の中核であるイノベーション部門を拡大し、新たな役職として同部門を率いる最高イノベーション責任者をリーダーシップチームに加えるべきか否かであった。医療機関で使われるさまざまな機器を製造する同社は、事業環境の変化に直面し、新製品や改良品の投入を加速させる必要に迫られていた。

 新たな役職も部門拡大も、一見したところその必要に応える手段に思えた。だが、議論はたちまち権力闘争へと変わってしまった。自説を声高に主張する者がいる一方で、顔には出さないものの密かに関心を失っていく者もいた。激しい議論は90分間続いたが、結論は出ないままだった。

 この提案に取り組んでいたタスクフォースでは、あらかじめ意思決定に向けた明確なプロセスと権限を定めていた。最終決定を下すのはCEOであり、その際には会議に出席する4人の主要幹部、具体的にはCOOとCHRO(最高人事責任者)、そして同社最大の2つの事業部門の責任者の意見を参考にすることになっていた。

 また、CEOはそのプロセスを通じて、新しい役職に関する知見を持つ人物に相談したり、それによって影響を受ける人たちに意見を求めたりして、情報を共有する手はずになっていた。ところが実際には、今回の意思決定に当たって定められていた役割は無視される結果となった。経営幹部12人全員が最終会議に出席し、意見を激しくぶつけ合ったのである。

 これは意思決定権がうまく機能しなかった典型例だ。

 円滑なコラボレーションには、明確な意思決定権が欠かせない。意思決定権が明確であれば、混乱を防ぎ、実行を加速し、対立を減らすことができる。マトリックス型組織、部門横断型組織、プロジェクト主導型組織では特にそうだ。

 組織が意思決定権の明確化のために利用できるフレームワークとしては、RACI、RAPID、DAREといったモデルがある。ところが残念なことに、こうしたツールは、意思決定において誰がどの役割を担うかを詳細に記した文書を作成するためだけに使われている場合が少なくない。

 あるグローバルeコマース企業のマネジャーはワークショップで、筆者らの一人であるグリーアに次のように語った。「意思決定権は、子どもたちのサッカーの試合のポジション表のようなものです。紙の上ではよくできた計画ですが、誰も理解していないし、覚えてもいません」

 問題の一つは、リーダーが意思決定ツールを使おうとすると、抵抗に遭ったり、懐疑的な反応を示されたりすることが多いことだ。

 筆者らは長年にわたって、パワーダイナミクスが人々の相互作用や意思決定にどのような影響を及ぼすかを研究してきた。また、多種多様な業界の100を超えるグローバル企業に助言や研修を行ってきた。これらの経験から、組織が意思決定権を定める際に犯しがちな4つの過ちを特定している。