社長には海外事業の経験と経営力が不可欠

編集部(以下色文字):2026年1月に、約30年の海外駐在経験を持つ小川一登氏が社長COOに昇格し、会長CEOの御手洗氏とのツートップ体制になりました。社長COO職を任せる基準について教えてください。

御手洗(以下略):小川君を社長COOに選んだ理由ははっきりしています。

 一つには、経営力です。当社の海外売上比率は、弊社由来のプロダクトベースでは85%を超えますから、海外の経営を熟知していることが極めて重要です。私も長く米国の販売会社であるキヤノンU.S.A.を率いていたからわかるのですが、海外市場の開拓というのは難しい。人種も宗教も多様で、その影響は大きく、単に本社から指示を出してうまくいくようなものではありません。そこで、海外販売会社の社長のうち「誰が現地社会を最も熟知し、経営できているか」を見ていたわけです。小川君はシンガポールやカナダ、そののちには米国でも現地法人のトップを務め、不況時のリストラも経験しました。そういった海外販売会社の社長としての経験と経営力を評価したということです。

 当社の海外販売会社はその昔、支社扱いでした。支社であるとどうしても本社の意向に従わざるをえないため法人化されましたが、それも連結経営がいわれる以前のことですから、単体の業績をよく見せるためにグループ会社が協力する仕組みになっていました。これには、私もキヤノンU.S.A.の社長になった時に大変苦労し、賀来さん(龍三郎社長・当時)に相談して、米国事業については独立した経営を認めてもらったのです。その時の経験から、私が1995年に本体の社長に就任して以降は「グループ内の会社はいずれも本社に配当をせず、利益をすべて自社の拡大のために再投資し、その地域ごとに自力で優良企業になるように」と指示し、各社が現地で優良企業となるよう促しました。この体制が現在のグループ経営推進の基礎になっています。同時に、各現地法人の社長たちが自由に腕を振るって経営力を磨くことができる環境にもつながっています。

 小川氏を高く評価された点をもう少しブレークダウンすると、意思決定力などですか。

 もちろん、意思決定力は重要です。加えてリーダーシップです。このリーダーシップの重要性は世界共通です。それはある種の性格と言い換えてもいいかもしれません。人間の性格というのは複雑ですが、大きくは「利己的か、利他的か」に分かれます。誰しもその両方の側面を持っていますが、組織を率いるためには「利他性」がより強いことが重要です。私がトップを選ぶ時に一番重きを置くのはそこです。小川君を選ぶ際も、大きな決め手でした。

PHOTOGRAPHER AIKO SUZUKI

GEに倣ってつくった「経営塾」で後継者育成

 御手洗さんの下で社長COOを務めたのは、現在の小川氏より前にも、内田恒二氏(2006~2012年)、真栄田雅也氏(2016~2020年)がいました。小川氏と以前の2人とで、起用する選択基準に違いはありましたか。

 選択基準というよりキヤノンが置かれた状況が違いました。内田君の時には、私が2006年から日本経済団体連合会(経団連)会長を拝命し、相当多忙になることが想定されました。そこで私が社長から会長という立場になり、国内外の事業や、人事・経理といった管理部門を見ることにしました。開発・生産部門は技術者出身の内田君に統括してもらうことにして社長にしました。

 この時に、役職名についても考えました。日本では「会長」「社長」が一般的でしたが、それだけでは責任区分が不明確になると考え、当社では「会長」が会社を率いる最高経営責任者であることを示すために2006年から「会長CEO」という役職名にしたのです。当時、日本でCEOやCOOという役職を置いている企業はまだ珍しかったと思います。内田君の後、同じく技術者出身の真栄田君が社長COOに就いた時期もありました。しかし、彼は不幸にして病に倒れてしまった。その際に、私が再び「社長CEO」に戻るのもおかしいので、「会長兼社長CEO」として社長も兼任することにしました。