マーケティングの分野はいくつもの課題に直面している。このため多くの企業は、その能力と運営方法を変えることが必要となるだろう。以下に5つの課題を示す。

 

課題その1:マーケティングは大幅な、あるいは転換的なイノベーションを導く必要がある。

 それによって、新たなカテゴリーやサブカテゴリーとなるような、新製品・新サービスが生みだされなければならない。イノベーションを少しずつ行い、一般的なマーケティング・プログラムに依存して、「ウチのブランドは、よそのブランドより優れている」と言うための戦略にフォーカスしていたら、売上げの成長はほぼ見込めない。なぜなら、市場では惰性が働くからだ。成長をもたらす唯一の方法は、製品・サービスを強化する大幅なイノベーションを行い、それが顧客に「不可欠なもの」と見なされることだ。エンタープライズ・レンタカーが取ったのはこうした戦略である。ほかにも、トヨタの〈プリウス〉、ザッポス、セールスフォース・ドットコム、ドライヤーズの〈スローチャーンド・アイスクリーム〉、ベストバイのギーク・スクワッド、アイシェアーズ、ESPNなど、多数の企業がこのような戦略を実施している。

課題その2:マーケティングは戦術的ではなく戦略的であるべきで、経営上層部において影響力を持つ必要がある。

 マーケティングは戦略に関して、3つの重要な推進力を持つべきだ。その1つ目は、顧客に関する洞察である。これが成長への取り組みを可能にし、戦略的な経営資源配分のベースとなる。2つ目は、戦略の中心的要素となる価値提案である。3つ目はブランド戦略で、これが事業戦略を特徴づけ、また可能にする。CMO(最高マーケティング責任者)を経営幹部の一員としている企業は増えてきてはいるが、いまだにマーケティングが戦術的な役割と見なされている企業も多い。

課題その3:マーケティングは製品別、国別、機能別の縦割り組織をコントロールし、これらの組織のあいだに競争や孤立ではなく、協調とコミュニケーションを生みだす必要がある。

 もはや企業には、一貫性やシナジーを失うような贅沢は許されない。ルイス・ガースナーがIBMを立て直すなかで実行した最も大胆な動きは、製品別や国別の縦割り文化に立ち向かうことだった。重要なのは、機能別の縦割り組織を乗り越えて統合的なマーケティング・プログラムを立ち上げることだ。組織によっては、たとえそれに慣れていなかったとしても、支援的役割を果たす必要がある。P&GのCMOを務めたジム・ステンゲルは、最高のアイデアを出した機能組織をチームリーダーとすることで事態をいくらか前進させた。だが、統合的なマーケティングのゴールは見えてこないままだ。

課題その4:マーケティングはブランドにエネルギーを注入する必要がある。

 ほとんど知られていないが、ここ10年ほどのあいだに、世界全体でブランド・エクイティが弱まってきている。その例外となっているのがエネルギーを持ったブランドだ。エネルギーは不可欠である。アップルやダヴなどのように製品からエネルギーを提供できない場合は、エネルギーのある何かを創造するか、見つけてきて、それをブランドと結びつける必要がある。エイボンの「乳がんウォーク」や、ホーム・デポが家のない人に住宅を提供する「ハビタット・フォー・ヒューマニティ」がその一例だ。

課題その5:マーケティングは戦術面での取り組みを向上させる必要がある。

 メディアが細分化され、ソーシャルメディアが台頭し、ブランドや製品が氾濫しているなかで、複雑さや混乱が非常に大きくなっている。したがって、優れたマーケティングや特別な製品でなければ、市場で抜きん出ることはできない。このためには、創造性の高いツールや、イノベーションに前向きな人々、幅広いマーケティング方式にアクセスする必要がある。現代自動車があのように好調なブランドとなっているのは、優れたマーケティング・プログラムを展開したことが一因だ。具体的には「流体彫刻デザイン」、「保証プログラム」、「無検閲キャンペーン」(125人の顧客が同社の車を与えられ、彼らのコメントが検閲を受けずに公表される)などを行っている。

 課題はもっとある。しかし、マーケティングが真の製品イノベーションや、事業戦略への影響、縦割り組織のコントロール、エネルギーや巻き込み、優れたマーケティング戦術を提供すれば、あるいはそれらに対して影響を与えられたら、それは企業にとって意味のあることだ。市場でも成功することだろう。


原文:Five Challenges Facing Marketing October 26, 2011